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廃用症候群は寝たきり・要介護の要因に
廃用症候群という言葉をご存知だろうか。これは我々が持っている運動能力を使わないでいると、やがてその機能が低下してしまう現象のことだ。この廃用症候群は、高齢者が寝たきりや要介護になってしまう大きな原因のひとつであり、今、とくに大きな病気を患っていない人でも注意をしなければならないものである。今月はこの廃用症候群について詳しく解説しよう。
昨年12月、日本人宇宙飛行士の由井亀美也さんが141日間に渡る宇宙での活動から帰還したのは記憶に新しいだろう。その際の様子がテレビなどでも報道されたが、自分自身の力では立ち上がることができず、周囲のスタッフに支えられるようにしていたのを覚えているだろうか。これも一種の廃用症候群であり、宇宙空間で長く生活をしていると、無重力状態のため自分の体重を支える必要が無く、そのため全身の筋力が衰えてしまうのだ。まだ年齢も若く、ましてや日々過酷な訓練を積んでいる宇宙飛行士でさえ廃用症候群になるのだから、誰にでも起き得るものなのだ。
廃用症候群は誰にでも起き得るものだが、とくに高齢者は日頃の活動量が落ちているため、余計に注意が必要である。
たとえば、風邪で2~3日寝込んでしまい、風邪が治った後に寝床から起き上がろうとした際、足に力が入らずによろけてしまうという経験は無いだろうか。たった2~3日でも、使わないでいると筋力は落ちてしまうものなのだ。高齢者の場合、1週間寝込んでしまうと10%~15%も筋力低下が起きるといわれているので注意が必要だ。
さらに怖いのは、病気や怪我で入院して、2~3ヶ月も寝たきりの生活になってしまうと、確実に筋力の低下が起きる。それを防ぐため、絶対安静でない限り、入院中でもできる限り体を起こし、悪くない部分の体を動かすようにリハビリを行なう。
たとえば足を骨折して入院をしたとしても、松葉杖をついてでも歩行訓練をする。もしこのリハビリを行なわないと、骨折をした足以外の部分の筋力もみるみるうちに衰えてしまい、たとえ骨折が治ったとしても、最悪の場合はそのまま寝たきりになってしまうこともあるのだ。
寝たきりになると、筋力の低下のみならず、全身に様々な悪影響をもたらす。関節の動きが悪くなり、骨も脆くなる。血液を全身に送り出すための心機能も低下し、血管に地の塊が詰まってしまう血栓も起きる。
また体を常に横にしているため、ばい菌を多く含んだ唾液が肺の中に落ちてしまい誤嚥性肺炎を発症したり、胃液が食道の方へ逆流して逆流性食道炎を起こすこともある。さらに長く寝たきりでいると床ずれを起こしたり、うつ状態、あるいは認知症を引き起こすこともある。廃用症候群がいかに恐ろしいものか、そして高齢者こそ活動性を高めることが重要なのかが理解できるだろう。
では、廃用症候群を予防するためにはどうすればよいのか。様々な状況毎にお伝えしよう。
まず怪我や病気などで、すでに寝た状態になっている場合。この場合、もちろん担当の医師に相談をすることが必要であるが、可能な限り体を動かすことだ。
たとえ歩けない状態であっても、可能であれば体を起こして、ベッドに座った状態でいること。そうするだけでも逆流性食道炎や誤嚥性肺炎を予防することができる。また、手や肩の骨折であればできる限り歩行をすること。足を骨折している場合でも、ベッドの上でも良いので腕の運動をすることだ。
また、周囲の家族からの協力も必要である。入院をしている場合には度々見舞いに行き、声かけを行なう。そうすることで入院している本人にも「必ず元気になる」という気力が生まれるし、会話を楽しむことで認知症の予防にもなる。
そして、寝たきりではないものの、ほとんど外出をしない、いわゆる「閉じこもり」のような場合について。外出をする気分になれず、ほとんど毎日、自宅で寝転がりテレビばかりを見ている、このような状態でも十分廃用症候群の危険がある。
本人でも、あるいは周囲の家族でも良い。まずは、外出をしない理由を探る必要がある。
たとえば身体的な要因として、たとえば尿失禁の心配があるため。転ぶのが怖いため。目が見えにくかったり、耳が聞こえにくいため交通事故が怖いため。このような理由で、無意識のうちに外出を避けていないだろうか。
このような場合、たとえば外出先でトイレのある場所を事前に確認しておいたり、大人用のオムツパンツを履いたり、あるいは杖を利用したり、家族が付き添って外出をしたりすることで、少しずつ外出の機会を増やすことが大切である。
身体的ではなく、外出する意欲が低下しているということもある。たとえば会社勤めや家事などから離れ、自分自身の役割が無くなり活動意欲が低下していることもある。また、趣味を無くしたり、あるいは友人との交流が少なくなると、必然的に外出の機会は少なくなる。
このような場合、何か外出をする目的を作ることも大切だ。何かひとつでも良いので、買い物をする用事を作ったり、手紙をポストへ出しにいくということでも良い。些細なことであっても、何か目的があれば、達成感を得られて外出が楽しくなるものだ。
また、老人クラブや町内会の活動に積極的に参加をし、人との係わり合いや交流を増やすことも大切である。ボランティア活動に参加をすることも、達成感や責任感を得られ、同時に他人との交流も図れるだろう。
そして趣味を広げること。老人クラブや地域のコミュニティで、ゲートボールやグラウンドゴルフなどの会はないだろうか。また散歩の会や写真撮影のクラブなどに入会しても外出の機会は増えるだろう。もちろん短歌や俳句、川柳、都々逸、書道などの文化系のクラブでも良い。そのような活動の場に参加をすることだけでも廃用症候群の予防に繋がるのだ。
寝たきり状態を防ぐためにも、そこまで進展はしなくても、生活にはりを持たせるためにも、ぜひ積極的に体を動かして廃用症候群を予防してほしい。
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