医療と健康
皮膚の乾燥・かゆみ~「老人性乾皮症」の予防
老人性乾皮症。あまり聞きなれない言葉かもしれないが、字の通り、皮膚表面の組織が乾燥してしまう状態のことである。皮膚表面を構成する「角層」という組織は、水分を保持して蒸発を防ぐ役割があるが、高齢になるとその機能が低下し、とくに今の時期は乾燥しやすくなり、それによりかゆみが生じるようになるのだ。今月はこの老人性乾皮症について詳しく解説し、予防法などについてもお伝えしよう。
皮膚が乾燥しやすい冬
高齢者は保湿機能が低下
皮膚にかゆみが出る症状を「皮膚掻痒(そうよう)症」という。空気が乾燥する今の時期に症状が現れやすい。皮膚掻痒症は高齢者だけではなく若者にも表れる症状であるが、高齢者の場合は皮膚表面の角層の保湿機能が低下し、より乾燥しやすくなるのだ。
角層は皮膚の一番外側を構成している組織で、その厚さは0.02ミリと薄く、非常に壊れやすい
図に、その断面構造を示す。角層は3つの組織から構成され、まず最も表層である皮脂膜は、皮膚表面層を覆い、水分の蒸発を防ぐ働きがある。
皮脂膜の下には角質細胞がある。これはアミノ酸や尿素、汗の塩分などから構成されており、天然保湿因子によって水分を保持する役割がある。
その角質細胞の間を埋めるようにして角質細胞間脂質がある。おもにセラミド、脂肪酸、コレステロールなどの成分で構成されており、角質細胞同士をしっかりとつなぎ止めたり、水分が蒸発しないよう保護する役割も持っている。
これら3つの組織により皮膚は守られ、そして水分を保持してくれているのだが、年齢を重ねるとともにその機能が衰え、乾燥しやすくなるのだ。なぜ皮膚が乾燥をするとかゆみが生じるのか。皮膚が乾燥した状態が続くと、皮膚の内部で炎症が生じる。炎症が生じるとその部分に痛みが発生するのだが、僅かな痛みというものは「かゆみ」として感じられるのだ。
かゆみの原因は「炎症」
かきむしると悪循環に
もうひとつ、皮膚の内部に炎症が発生すると、かゆみを伝える知覚神経が皮膚表面まで伸びてきて過敏な状態になる。すると余計にかゆみを感じる状態になる。
かゆいからといってかきむしってしまうと、その部分の皮膚の角層を傷つけてしまい、すると水分を保持するバリア機能も壊れてしまう。するとさらに乾燥が進み、かゆみが強くなるという悪循環となってしまうのだ。
老人性乾皮症の症状が進行すると、かゆみの症状のほかにも皮膚表面に白い粉のようなものが付着したり、ひび割れが生じたりする。かきむしってしまうとさらに症状が悪化し、小さな赤い発疹ができたり、かいた部分が赤黒くジュクジュクした状態になる。一度このような状態になってしまうと治らずかゆみも収まらないため、皮膚科による診断、治療が必要になってしまう。
室内湿度を40~50%に保つ
お風呂はぬる目のお湯で
では、皮膚の乾燥、かゆみを予防する日常生活における注意点もお伝えしよう。
まずは皮膚の乾燥を防ぐために、部屋の湿度に注意をしなければならない。とくに冬は暖房を使用するが、エアコンによる暖房は空気が乾燥しやすい。適宜加湿器を使用したり、濡れたタオルなどや洗濯物を室内に干すなどして、適切な湿度を保つようにすること。湿度40%~50%以上を保つのが理想である。
入浴の際にも注意が必要である。垢すりタオルなどで強くこすってしまうと皮膚の角層を傷つけてしまう。かゆみがあるとついゴシゴシとこすりたくなってしまうが、それは厳禁である。柔らかいタオルで洗うか、最近ではポンプを押すと柔らかな泡状となって出てくるタイプのボディソープも市販されているので、そういったものを利用して手のひらで優しく洗うと良い。
湯船の温度にも注意が必要である。身体が温まりすぎるとかゆみが起こるため、熱い風呂に浸かるのはよくない。ぬるめの温度にゆっくりと浸かるようにしよう。
風呂から上がる際には、かゆみのある部分に冷水をかけるとかゆみが起きにくい。
また体を拭くときにも強くこすらずに、タオルでポンポンと叩くようにして拭くようにする。風呂上りは肌が乾燥しやすいため、乾燥肌専用のクリームを塗って皮膚表面を保湿する。また皮膚に直接触れる下着も、化学繊維のものは避け、なるべく刺激の少ない木綿製でやわらかな素材を選ぶと良いだろう。
新陳代謝、バリア機能向上に
積極的にビタミンB摂取を
食事についてもかゆみを予防するためのポイントがある。ビタミンBは肌の新陳代謝を向上させ、傷んだ細胞の再生を助けたり、バリア機能を高めてくれると言われている。ビタミンBを多く含む食品である乳製品や卵、レバー等を積極的に摂るとよい。
逆に避けたいものは酒類である。アルコールは飲みすぎると身体が熱くなり、かゆみが強まってしまうので、出来るだけ避けるようにする。またコーヒーなどカフェインが含まれるものや、辛味の強い香辛料など刺激物の摂取も控えること。
かゆみが起きてしまいそうなときには、他のことに意識を集中させると良い。自分の趣味や好きなことに集中・没頭している時には、かゆみを忘れているという経験があるだろう。好きなことをしてリラックスをしているとかゆみを感じにくくなるのでおすすめである。
また細胞の新陳代謝は夜の眠っている間に活発になるので、十分な睡眠時間を取ることも大切である。眠る前に保湿クリームを塗りながら体をマッサージし、リラックスして床に就くと良い。
体のかゆみはそれ以外の疾患が原因となっていることも多い。かゆみが長く続く場合には、まず皮膚科の医師に相談を。
- 髙谷 典秀 医師
- 同友会グループ 代表 / 医療法人社団同友会 理事長 / 春日クリニック院長 / 順天堂大学循環器内科非常勤講師 / 学校法人 後藤学園 武蔵丘短期大学客員教授 / 日本人間ドック・予防医療学会 理事 / 日本人間ドック健診協会 理事 / 日本循環器協会 理事 / 健康と経営を考える会 代表理事
【専門分野】 循環器内科・予防医学
【資格】 日本循環器学会認定循環器専門医 / 日本医師会認定産業医 / 人間ドック健診専門医 / 日本内科学会認定内科医 / 医学博士
【著書】 『健康経営、健康寿命延伸のための「健診」の上手な活用法』出版:株式会社法研(平成27年7月)【メディア出演】 幻冬舎発行「GOETHE」戦う身体!PART4 真の名医は医者に訊け(2018年6月号) / BSフジ「『柴咲コウ バケットリスト』in スリランカ 人生を豊かにする旅路」(平成28年1月) / NHK教育テレビ「きょうの健康」人間ドック賢明活用術(平成27年5月) / NHKラジオ「ラジオあさいちばん 健康ライフ」健康診断の最新事情(平成25年11月)
この記事が少しでもお役に立ったら「いいね!」や「シェア」をしてくださいね。
- 今注目の記事!