医療と健康
要支援・要介護の原因「ロコモティブシンドローム」予防に努めよう
すっかり暖かくなり、本来であれば絶好の行楽シーズンを迎えているはずだが、コロナウイルス感染の第4波の影が見え隠れする今、外出せずに家でずっとゴロゴロとしているという人も多いだろう。しかし家に閉じこもってばかりでは、とくに高齢者の場合には身体が弱ってしまう。今月は運動器症候群「ロコモティブシンドローム」について、その予防法とあわせて詳しくお伝えしよう
運動器に障害生じる
日常的動作が困難に
今年の日本列島は春の訪れが早く、桜の開花も記録的に早かった。コロナ禍の今、宴会を伴った花見を楽しむことはできないが、特別な花見スポットへ足を運ばなくとも、外へ出て散歩をするだけでも、町のあちこちで春の訪れを感じることが出来ただろう。
一方で、外出せず、家の中に閉じこもったままだったり、敷きっぱなしの布団の中に潜ったまま、テレビを見ながら一日を過ごしているという人はいないだろうか。「高齢だから仕方がない」「すぐに疲れてしまう」「身体のあちこちが痛い」などの理由で閉じこもりの生活をしていると、それはすでに「ロコモ」かもしれない。
ロコモは「ロコモティブシンドローム」の略称で、「運動器症候群」とも呼ばれる。2007年に日本整形外科学会が提唱した概念で、老友新聞読者ならばすでに聞き覚えがあるという方も多いだろう。
ロコモとは、筋肉、骨、関節、軟骨、椎間板といった運動器のいずれか、あるいは複数に障害が起こり、立つ、歩くなどの日常的動作に障害が起きている状態を指す。これらの日常的な動作すら困難になると、やがて寝たきり状態になるなど自立した生活を送ることができなくなり、「要支援」「要介護」になる原因となる。
平成25年に行った厚生労働省国民生活基礎調査によると、要支援・要介護になる原因のうち、1/4は運動器の障害によるものだという。健康寿命を延ばすには、QOL(生活の質)を高く保ったまま長生きをするためには、なによりも自立した生活、活動を行えることが最も大切である。
まずは自分がロコモかどうかを簡単にチェックできる方法がある。以下の7つのチェック項目のうち、ひとつでも当てはまることがあればロコモの可能性がある。
ロコモ7つのチェック項目
①片足立ちで靴下がはけない
②家の中でつまずいたり、すべったりする
③階段を上るのに手すりが必要
④家のやや重い仕事が困難である(掃除機の使用、布団の上げ下ろしなど)
⑤2㎏程度の買い物をして持ち帰るのが困難である(1リットルの牛乳パック2個程度)
⑥15分くらい続けて歩くことができない
⑦横断歩道を青信号で渡りきれない
以上、思い当たるものはあるだろうか。「年だから」といって、そのままあきらめて放置してしまうと、運動機能はどんどん低下して悪循環となる。きちんとロコモを自覚し、早めに対処することが重要である。
ロコモ予防はウォーキング
欠食・栄養不足なくすこと
ロコモになる原因のひとつは加齢である。加齢による筋力の減少は避けることが出来ない。また関節も歳を重ねるごとに擦りへり、痛みが生じる。
しかしこれらは、適切な運動習慣、食習慣を身に着けることで、現状を維持したり、機能低下を最小限に抑えたりすることもできる。日頃から運動習慣がないと、日に日に筋力は衰えてゆく。もちろん、掃除や洗濯など、毎日の家事でも充分な運動になるが、外へ出て、身体が温まるくらいのウォーキングがお勧めである。太陽の光を浴びて、そして歩くという刺激を身体に与えることで、骨粗しょう症の予防にもなる。
食習慣も大切である。お腹がすかない、食事の仕度をすることが億劫などの理由で、欠食や栄養不足になってはいないだろうか。栄養が不足し、痩せていくと骨や筋力が弱くなり、ロコモを引き起こしたり、骨粗しょう症の原因にもなる。
運動不足や悪い食習慣が続くと転倒しやすくなる。そして万一転倒した際には、骨折などの怪我にも繋がりやすい。怪我をすると安静にしなければならなくなり、さらにロコモが進行してしまう悪循環となるのだ。
家の中で行えるトレーニングで
機能低下を抑えよう
最後に、ロコモを少しでも予防をするために、家の中でも行えるトレーニングを紹介する。ただし、身体に痛みや怪我がある場合には無理して行わないこと。
■バランス能力を鍛えるトレーニング
背筋を伸ばして立ち、片足を上げて、そのまま1分間静止する。転倒しないよう、必ず家具や手すりなどの動かない安定したものにつかまりながら行うこと。なれないうちは両手でつかまり、慣れてきたら片手だけでつかまるようにする。バランス能力を鍛えると転倒しにくくなる。これを左右の足で行う。
■足の筋力を鍛えるトレーニング
足を肩幅くらい開いて立ち、つま先は外側へ30度くらい開いた状態にする。そのまま、息を吐きながらゆっくりと膝を曲げて腰を落とす。膝はつま先と同じ方向に曲げるようにする。そしてゆっくりと膝を伸ばして身体をまっすぐにする。これを5~6回繰り返す。このとき、力が加わっている筋肉がどこか、自分で意識をしながら行うと筋力アップの効果がより高まるという。また、膝は曲げすぎると痛めるため、90度以上は曲げないようにする。馴れないうちはいすを使うと良い。椅子に座った状態から、ゆっくりと立ち上がり、そして座りなおす。これを繰り返す。最初は机に手をつけながら、慣れたら手をつけずに行う。
いつまでも自分の力で、スムーズに動ける身体を保つために、まずはロコモを知り、そして予防することが重要である。
- 髙谷 典秀 医師
- 同友会グループ 代表 / 医療法人社団同友会 理事長 / 春日クリニック院長 / 順天堂大学循環器内科非常勤講師 / 学校法人 後藤学園 武蔵丘短期大学客員教授 / 日本人間ドック・予防医療学会 理事 / 日本人間ドック健診協会 理事 / 日本循環器協会 理事 / 健康と経営を考える会 代表理事
【専門分野】 循環器内科・予防医学
【資格】 日本循環器学会認定循環器専門医 / 日本医師会認定産業医 / 人間ドック健診専門医 / 日本内科学会認定内科医 / 医学博士
【著書】 『健康経営、健康寿命延伸のための「健診」の上手な活用法』出版:株式会社法研(平成27年7月)【メディア出演】 幻冬舎発行「GOETHE」戦う身体!PART4 真の名医は医者に訊け(2018年6月号) / BSフジ「『柴咲コウ バケットリスト』in スリランカ 人生を豊かにする旅路」(平成28年1月) / NHK教育テレビ「きょうの健康」人間ドック賢明活用術(平成27年5月) / NHKラジオ「ラジオあさいちばん 健康ライフ」健康診断の最新事情(平成25年11月)
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