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医療と健康

2021年02月16日

毒と薬と令和とコロナ

毒と薬について

私はこれまでに特に毒に着目して研究を進め、『毒の科学』(ナツメ社)などの毒に関する著作をしていることもあり「毒の専門家」と見做されることがよくあります。実は、私は歴とした「薬の専門家」で、いわゆる毒と言われるものの中には使い方によって薬として応用されるものも多く、たとえば、病原菌に奏功する抗生物質は毒をうまく使っている顕著な例です。微生物が作り出し、病原菌に対して強い毒作用を示す化合物のうち、私たちの生体にはさほどの毒性を示さない化合物を抗生物質として応用しているのです。つまり、私は「毒」から「薬」を見るスタンスをとっているだけなのです。

薬という字は、草冠に「楽」と書きます。学生時代、「病んでいる人の身体に草(薬草)を置いて楽にする」ことからこの漢字が出来たと習ったことがありました。しかし、これはどうやら違うようで、草冠(くさかんむり)が草(薬草)を示しているのは確かですが、「楽」の方は、「音」を示し、薬研(やげん)などで薬の材料をつぶす音を示しているのだそうです。ちなみに「楽器」も「楽しい器」や「楽な器」ではなく、「音を出す器具」のことです。ただし、私は、「薬」という字を「草」と「楽」に分けて、「草(薬草)を楽しむ=草楽(そうらく)」と解釈し、大学の研究室や自宅書斎を「草楽庵」、大学の薬用植物園の温室内の談話室を「草楽館」と呼んでいます。

令和によせて

このたび「平成」の時代が終わり、元号が「令和」となりました。これは『万葉集』から選んだ文字の組み合わせで、「大化」以来248番目の元号ということです。この元号が示されたとき、私はこの文言を既にどこかで見たような気がしてなりませんでしたが、ほどなくその謎が解けました。私が大学院生だった1970年代に購入し、その後私の愛蔵書となっている『日本藥学史』(清水藤太郎著、南山堂)に「くすりの語源」についての記述があり、その中で既に「令和」の文言を見ていたのです。そして、くすりの語源は「令和」であるという記載がありました。

この本では、江戸時代末期に刊行された『奇魂(くしみたま)』(佐藤方定著)という書物について紹介され、「令和」と書いた「令和(なぐし)」こそ、くすりの語源であるとされています。すなわち、「なぐし」とは動植物由来の「病を令和(なごむ)るもの」、つまり「くすり」のことを言い、その体言が「なぐし」であるということです。よく、くすりの語源は「奇(く)し」と言われることがありますが、『奇魂』ではこの説を否定し、「なぐし(なくし)」の「な」がとれた「くし」をその由来としています。

このように、新しい元号が「薬」と大いに関係性があることを知り、「薬の専門家」である私は大変嬉しく思っています。

新型コロナウイルスと薬剤師

令和3年となった今日、新型コロナウイルスに対抗する為のワクチン投与がわが国でも始まろうとしていますが、私は、この際、もっと薬剤師に頼るべきではないかと思っています。もとより薬剤師は薬の保管のプロでもありますし、薬の投与に責任を持つ専門家です。わが国ではあまり知られていないようですが、米国や英国などでは薬局におけるワクチン接種が普通に行われています。接種そのものは現状通り看護師が行うのが良いと思いますが、今ネックになっている「問診」はコロナの影響を受けて多忙な医師に限らず薬剤師も担当可能な仕組みを作れば接種がよりスムーズになると思っています。薬剤師にとって副作用の説明はまさに「御手の物」です。この非常事態を何とか人類の叡智と皆の協力で乗り越えていかなければならないと思っています。

船山信次
  • 船山 信次 教授
  • 東北大学薬学部卒業・同大学大学院博士課程修了、薬剤師・薬学博士
    現在、日本薬科大学薬学部特任教授
  • 「薬毒同源」を唱え、「毒から見た薬・薬から見た毒」の考究を続けている。著書に『毒と薬の世界史』(中公新書)、『〈麻薬〉のすべて』(講談社現代新書)他、多数。TV出演に『ザ!世界仰天ニュース』他、多数。
  • 日本薬科大学 公式サイト
    https://www.nichiyaku.ac.jp/

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