医療と健康
高血圧症が招く重大な病気
日本での高血圧患者数はおよそ4千3百万人と言われており、実に3人に1人が高血圧を患っているということになる。高血圧はこれといった症状がないまま進行し、気がついた時には様々な健康被害を引き起こす恐れがあるほどの状態になっている事もあり得る恐い病気だ。今月は高血圧症が招く重大な病気について解説し、さらに高血圧の原因や予防法についてまとめてみた。高血圧と向き合い、健康的な生活を維持するためのヒントとしてほしい。
自覚症状ないまま進行
ご存じの通り、私たちの体の中に張り巡らされている血管というものは、全身に血液を送り届けるパイプとしての役割を担っている非常に重要な存在である。ポンプの役割を果たす心臓から送り出された血液は、動脈を通って酸素や栄養分を全身の細胞に届け、そして静脈によって老廃物や二酸化炭素などの不要な物を体の外へ出すための循環が絶え間なく行われている。この血液循環が正常に保たれることで、体内の臓器や組織はエネルギーを得て機能しているのだ。
血液を体の隅々まで運ぶために、血管には高い圧力がかかる。その圧力に耐えるため、健康な血管は弾力性を持っているが、高血圧症の場合は圧力がかかりすぎ、血管壁が傷を負ってしまうことがある。血管壁に傷や裂け目が生じると、そこに白血球や血小板、脂肪分が集まりやすくなる。この状態が長く続くと、血管壁がだんだんとぶ厚く硬くなる、いわゆる「動脈硬化」という状態になるのだ。
さらに血管壁が厚くなると血流が滞り、血管内に「プラーク」と呼ばれるドロドロとした塊が蓄積される。このプラークが増えると血管が狭まり、血流がさらに悪化する悪循環が生じる。この状態が続くと、動脈が完全に詰まってしまう危険が高まり、心筋梗塞や脳卒中といった重大な疾患を引き起こすのだ。
高血圧は自覚症状がほとんどないまま進行し、深刻な健康被害、命をも脅かすことから「サイレントキラー」とも呼ばれている。日々、少しずつ症状が進み、気づいた時には手遅れになることが少なくない。とくに高齢者は若年層に比べて、加齢によって血管の弾力が失われやすくなっているため注意が必要であり、日常的に血圧を測り、数値を把握しておくことが大切なのである。家電量販店などで販売されている小型の血圧計を使い、毎日数回、決まった時間に測定して記録を付ける習慣を付けると良いだろう。日本高血圧学会による「成人における血圧値の分類」を掲載したので参考にしていただきたい。この表の数値と自分の血圧を比較し、高血圧であればすぐに医療機関を受診し、早めの対策を講じることが大切だ。
心筋梗塞や脳卒中引き起こす
では、高血圧が招く代表的な疾患についていくつか挙げてみる。
■心臓病
高血圧になると、心臓がより高い圧力で血液を送り出す状態になるため、心臓の筋肉が厚くなり心肥大を起こす。 また動脈硬化で心臓への血液の循環が悪くなると酸素不足の状態になり、心筋梗塞を招くこともある。
■脳卒中・脳梗塞
高血圧によって脳血管が損傷し出血する脳卒中のリスクが高まる。また脳の血管の動脈硬化が進むと、血管が詰まり脳梗塞を起こすリスクも高まる。
■慢性腎不全
腎臓の血管の動脈硬化が進むと慢性腎不全を招く。
■高血圧性網膜症
高血圧によって目の奥にある網膜の血管が損傷すると、眼底出血を起こして視力の低下や失明の原因となる。
■認知症
高血圧により脳卒中や脳梗塞を引き起こすと認知症の原因にもなる。
生活習慣改善で予防
では次に、日常生活の中で高血圧を防ぐためのポイントを紹介する。
塩分を控える
塩分の摂りすぎは血圧を上げる原因の一つ。一日6グラム未満に抑えるのが目安だ。上手に減塩するコツとしては、調味料として酢やレモンを活用し味にアクセントをつける。胡椒やとうがらし、ワサビなどの香辛料を効かせて味に変化を付ける。醤油・ソースなどは直接料理にかけずに、小皿にとって少量付けるようにする。麺類の汁は飲まずに残すなどがある。
禁煙・節酒を心がける
タバコや過度なアルコール摂取は血圧を上昇させる。また高血圧の人の喫煙は脳卒中や心筋梗塞の発作を起こす危険が非喫煙者の2~3倍になるといわれている。
食べ過ぎ・飲み過ぎに注意
肥満も高血圧の原因となる。食べ過ぎ、飲み過ぎの生活を改め、摂取エネルギーを制限すること。
入浴はぬるめのお湯で
高温の湯は血圧を上昇させる。40度位のぬるめの湯が良い。
適度な運動
ウォーキングなどの適度な有酸素運動は血圧の安定に効果的である。無理なく続けられる運動を取り入れてよう。
ストレスをためない
ストレスがたまると血圧が上がりやすくなる。趣味や自分なりのリラクゼーション法を見つけ、心身をリフレッシュする時間を持つと良い。
これらのポイントを日常生活の中で意識することで高血圧を予防しやすくなるのでぜひ試していただきたい。なおこれらの生活習慣の改善だけで血圧のコントロールが難しい場合は、すぐにかかりつけ医に相談をすることが大切だ。
- 髙谷 典秀 医師
- 同友会グループ 代表 / 医療法人社団同友会 理事長 / 春日クリニック院長 / 順天堂大学循環器内科非常勤講師 / 学校法人 後藤学園 武蔵丘短期大学客員教授 / 日本人間ドック・予防医療学会 理事 / 日本人間ドック健診協会 理事 / 日本循環器協会 理事 / 健康と経営を考える会 代表理事
【専門分野】 循環器内科・予防医学
【資格】 日本循環器学会認定循環器専門医 / 日本医師会認定産業医 / 人間ドック健診専門医 / 日本内科学会認定内科医 / 医学博士
【著書】 『健康経営、健康寿命延伸のための「健診」の上手な活用法』出版:株式会社法研(平成27年7月)【メディア出演】 幻冬舎発行「GOETHE」戦う身体!PART4 真の名医は医者に訊け(2018年6月号) / BSフジ「『柴咲コウ バケットリスト』in スリランカ 人生を豊かにする旅路」(平成28年1月) / NHK教育テレビ「きょうの健康」人間ドック賢明活用術(平成27年5月) / NHKラジオ「ラジオあさいちばん 健康ライフ」健康診断の最新事情(平成25年11月)
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