医療と健康
口腔内トラブルの予防
80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という「8020運動」は本誌読者であればよくご存じだろう。人の歯は、親知らずを含めると全部で32本あるが、虫歯や歯周病などが原因で抜歯し、年々自分の歯が少なくなっていくもの。しかし自分の歯が20本以上残っていれば、食事をしたり会話をしたりなどの日常生活は不自由を感じないという基準である。
日本人の平均寿命は世界でもトップであるが、重要なのはいかに健康な状態で長生きができるかである。寝たきりや要介護の状態で長生きをしても仕方がない。健康寿命と平均寿命との差、いわゆる不健康な期間というのは、男性がおよそ9年、女性ではおよそ12年といわれているが、要介護となる要因のひとつが口腔内トラブルである。自分の歯を失い、食べ物をうまく噛めなくなってしまうと、食事を楽しむことが出来なくなるのはもちろんだが、うまく噛めないことにより食事量が減少したり、あるいは柔らかいものばかりを好み栄養の偏りが起きたり、また歯周病を患うことで単に口の中の問題だけではなく全身の健康にも悪影響を及ぼすことが最近の研究で明らかになっているのだ。
歯周病は万病の元
食後の歯磨き、歯石除去を
健康長寿のためにも、できるかぎり自分の歯を多く残したい。そのためには歯磨きで歯を奇麗にすることはもちろんだが、口腔内全体の健康を維持する必要がある。
まず、自分の口の中をご自身でよく観察していただきたい。健康な人の歯茎は綺麗なピンク色をしているが、不健康な歯茎、たとえば歯肉炎などを患っている場合には歯と歯茎の境目の部分が炎症を起こし、赤く腫れてしまう。さらに歯周病が進むと歯周炎という状態になり、歯茎は痩せ、歯と歯茎の境目が下がり歯の根っこの部分が露呈してしまう。さらにそのままの状態で放置すると、歯が支えられなくなり抜け落ちてしまうのだ。
歯周病の大きな原因の一つは、食事の後に適切な歯磨きが行えず、口の中に細菌が繁殖して塊となり、それが歯垢になってしまうことである。歯垢はねばねばしてうがいくらいでは落ちず、きちんとしたブラッシングをしないと落とすことができない。さらに歯垢が唾液に含まれるカルシウム成分と結びつくと石灰化し、石のように固くなる。これが歯石と呼ばれるもので、どんどん成長し、歯と歯肉の間にも入り込み、歯の根っこの方まで進行してゆく。歯石は細菌の塊なので様々な毒素を持っており、骨まで溶かしてしまうという。
歯石の状態になってしまうと通常のブラッシングでは落とすことはできず、歯医者に行き、専用の器具でこそぎ落としてもらうしかない。歯石がたまっていると感じたら、歯医者で除去してもらうことが大切であるが、そうなる前の歯垢の段階で奇麗に磨き落とすことが歯周病予防には最も重要である。
正しい歯磨きの仕方
歯間ブラシ、糸ようじ併用
歯周病を予防するには、正しい歯磨きの仕方を習得することで歯垢を奇麗に落とすことが一番大切である。以下の歯磨きの方法を参考にしていただきたい。
歯ブラシの持ち手はまっすぐなものを選び、毛束は3列くらいの大きすぎないものを選ぶと良い。毛の硬さは歯茎に歯ブラシを当てて、痛みがないものが良い。ブラッシングは歯だけではなく、歯茎もマッサージするように行なうため、硬すぎると歯茎を傷つけてしまう。逆にやわらかいと歯垢を十分に落とせない。
歯ブラシの握り方は柄の後ろの方を親指、人差し指、中指で軽く持つようにする。力が入りすぎると歯や歯茎を傷つけてしまう。
磨くときには歯を一本一本意識して磨くこと。歯と歯茎の境目もきちんと磨く。
また、歯並びにも関係することだが、通常の歯ブラシだけでは歯と歯の間の汚れを落としきれない場合、歯間ブラシや糸ようじなどを併用すると良い。
また歯周病かどうかをチェックするポイントを表にまとめたので、こちらも参考にしていただきたい。
高齢者の健康寿命を延ばすためには、運動と栄養バランスの良い食事が重要だが、その食事を支えるのがまさに歯と口の健康である。適切な歯磨きの習慣を身につけていただき、定期的な歯科検診はもちろん、異常を感じたらすぐに歯科医師に診てもらうことをおすすめする。
〈歯間ブラシ〉
細い針金の先にブラシが植毛されているもの。歯と歯の間の隙間に差し込んで往復させるようにブラッシングして汚れをかき出すように使用する。歯や歯肉を痛めないよう、隙間にあった適度な太さのものを選び、ゆっくりと磨くようにする。
〈糸楊枝〉
歯間ブラシが入らないほど狭い隙間を磨くためのもの。「楊枝」と名前が付けられているが、実際には楊枝のような形状をしているわけではなく、糸状のものである。この糸を歯と歯の間に差し込み、往復させるように磨く。
この記事が少しでもお役に立ったら「いいね!」や「シェア」をしてくださいね。
- 今注目の記事!