医療と健康
軽登山の効用
近年コロナ禍において、登山の人気が高まっています。自然の中ではソーシャルディスタンスもあまり気にせず、清々しい空気を楽しむことができます。一方私は、登山は最もからだを酷使する運動の1つであると考えています。なにしろ私たちは、普段の生活から離れた環境で、長時間荷物を担ぎ、足元の悪い中、ときには両手両足を使って山の中を歩くわけですから。
私自身は、10年以上前に登山を始め、現在は社会人山岳会に参加し、季節を問わず登山を楽しんでいます。山岳会で驚くことは、私の親と同年代である70歳代後半の方であっても、私と同じペースで歩く方がたくさんいらっしゃることです。こういった方々は、若いころから登山を継続されている方が多いようです。ちなみに、私はアラフィフ年代ですが、自分が70歳代になったとき今と同様に歩く姿は想像できません。
登山はからだに負荷をかけながら長時間行う運動であり、有酸素運動に分類されます。ちなみに、ウエイトトレーニングや短距離走などは、無酸素運動とよばれます。有酸素運動では、持続的に筋肉を使うため、脂肪の燃焼や心肺機能の向上、基礎代謝をあげるなどの効果が期待できます。では、どれくらいの登山を行うとからだに良い効果をもたらすのでしょうか。
鹿屋体育大学の山本正嘉先生によれば、「低山であっても1ヶ月間の総登下降距離がプラス/マイナス2000m以上を歩くと健康増進および体力維持に良い効果をもたらす」1)とのことです。これは週に1回、約500mの登り降り(軽登山)を1ヶ月に4回行うことに相当します。さらに、山本先生の論文を読むと、「登山をするしないに関わらず加齢により筋力は低下するが、毎週軽登山をするひとの方がより高い筋力を発揮できる」2)ことが示されています。これらから健康増進を目指した登山では、ご自分のペースで継続して歩き続けること、軽い登下降負荷の積み重ねが重要であることがわかります。
軽登山を始めてみようと考える方がいるかもしれません。たとえ近所の裏山であっても、登山には危険が伴うことがあります。そのため登山には十分な計画・準備(ルート調査や体調管理など)と装備(靴、雨具、ヘッドライト、地図、携帯電話、水分、食べ物など)が必要です。家族や周りの方に、どこに行くかを伝えて出かけることも重要です。また、登りでは山頂を目指すあまり、オーバーペースになりがちですので、下山のことも考慮してゆったりと歩くことをお勧めします。登山は、老若男女関係なく楽しめるアクティビティです。ご自分の体調・体力に合わせ、山を歩いてみてはいかがでしょうか。
参考文献
1) 山本正嘉、月間±2000m登山の提案、山と渓谷、995:60、2018
2) 山本正嘉、登山とスポーツ科学-今後の課題、登山研修、33:52-55、2018
- 猪瀬 敦史(いのせ あつし)博士
- 所属:日本薬科大学 生命科学薬学分野
- 専門:生物の環境応答、特に酸化ストレス応答の研究、生化学、微生物学
- 出身:埼玉県
- 趣味:登山、酒(全般)
- 日本薬科大学 公式サイト
https://www.nichiyaku.ac.jp/
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