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医療と健康

2022年04月04日

桜の季節

今年も桜の季節となりましたね。
この記事が皆様の目に留まる頃(4月上旬)には東京をはじめ多くの地域で桜が満開の時期となっているのではないでしょうか。

桜は日本の文化あるいは私たち日本人の精神性を象徴しているともよく言われます。

「願わくは 花の下にて 春死なむ その如月の、望月のころ」

名門の武士として生まれ、若くして出家し多くの名歌を残した西行法師が最も好んだ花が桜であり、その桜花の満開の下で死にたいとの思いを詠んだ歌です。(実際、西行さんは桜の満開に日に亡くなったそうです。)
桜の花の咲いている美しさはもちろんですが、寒い冬を乗り越えて春の最高の風物詩として蘇る生命力の強さや、咲いてから散るまでのわずかな時間に移ろいゆく姿に人生や出会いと別れなどが私たちの人生や思いと重なり合って、心にしみじみと沁みるのかもしれません。ちなみに、お隣の中国でも桜の花とその実である「桜桃」(サクランボ)は昔から、美しさとめでたさの象徴であり、例えば超難関であった国家試験の「科挙」の合格者に対する皇帝主催の祝賀パーティーは「桜桃宴」と呼ばれたそうです。

桜の花を塩漬けにし、これに湯を注いで浮いた桜花を愛でながら飲むのが、結婚式などのおめでたい席に供される「桜湯」です。「桜餅」にも使われていますね。実はこの桜湯などの香りの成分は「クマリン」と呼ばれる物質で、少しバニラに似た芳香があり、香水に調合されることもあるようです。この「クマリン」、老化を抑制する抗酸化作用もあり、ほのかな桜の香りとともに、(ほんの少しだけですが)老化予防にも役立ちそうですので時々は桜湯を優雅に楽しんでいただきたいと思います。

日本茶

「桜湯」は結婚式など限られた時だけですが、私たちは普段は「お茶」(「日本茶」)を楽しんでいます。私も日本茶は大好きで、煎茶、玄米茶、ほうじ茶、麦茶などなど本当に様々なお茶を毎日楽しんでいます。皆様もご存じのように、お茶には多くの成分が含まれており、様々な健康効果をもたらすことが知られています。このようなお茶(緑茶)の健康効果は単一の成分によるものではなく、それらの成分が複合し相乗的な作用によって効能が増幅されていることが分かっています。たくさんあるお茶の成分の中で最も重要な成分は2つです。一つは「カテキン」類と呼ばれるもので、お茶独特の渋みや苦みの成分です。もう一つは「アミノ酸」類でお茶のうま味の元で約20種類のアミノ酸が含まれているとされています。

お茶の効用の多くは、「カテキン」類によるものです。表に示されるように、発がんを予防する作用、血圧の上昇や血糖値の上昇を抑え、さらに血液中のコレステロールを低下させ生活習慣病を予防する作用、アンチエイジングすなわち老化防止の作用、そして認知症も予防できる可能性が指摘されています。そのほかにも虫歯の予防や口臭予防など、私たちの日常生活の中で多くの生活関連の病気や健康状態に対して予防効果が知られているのです。

また、お茶にはビタミンCが多く含まれています。急須で入れたお茶1杯で1日に必要なビタミンCの約10%を取ることができますので、例えば1日5杯のお茶で1日必要量のほぼ半分を摂取することが出来ることになります。ビタミンC(正式には「アスコルビン酸」といいます)は骨や血管などの構造を支えるコラーゲンの生成に不可欠な栄養素です。そのためにビタミンCが不足すると、まず血管のコラーゲンが出来なくなるため、血管がもろくなり、すぐ出血してしまいます。このような病気は「壊血病」と呼ばれ、ビタミンCの知られていなかった昔は非常に恐れられた病気でした。日本でも幕末の時代にロシアの南下が盛んとなり、北海道(蝦夷地)の守備のために越冬した津軽藩の藩士たちが、厳冬のさなかまったく食事からビタミンCが取れなかったために、太ももの内側に皮下出血して大きな青あざができ、歯ぐきが腫れて出血が続く状態となり(当時このような病態を「青腿牙疳;せいたいがかん」と呼んでいました)、多くの藩士が壊血病で死亡した記録が残っています。おそらく厳冬期では野菜はおろかお茶すら容易に飲めない状況だったのかもしれません。最近ではビタミンCの抗酸化作用が注目され、やはりお茶に含まれるビタミンEともども、がんや動脈硬化の予防や老化防止作用にも有効性があることが報告されています。

お茶は単に飲み物としてだけでなく、様々な食品に含まれ、食品としても利用されています。その代表的な例が抹茶を用いたお菓子の類でしょうか。微粉末状にしたお茶(抹茶)を餅やアイスクリームに混ぜたりして食べています。食後のデザートに抹茶アイスクリームなどが良く出てくることは皆様もご経験があることだと思います。煎茶として味わった後の茶葉(茶殻)は食べることができるそうです。お湯で溶けた成分はなくなりますが、食物繊維やビタミンE(抗酸化作用が強いビタミンです)あるいはβ―カロティンなどの不溶性成分は残っており、健康食品としてもすぐれた成分ですので、料理や菓子などに利用する方もいるそうです。ということで、是非一度、お茶の健康に対する優れた作用をご理解いただき、今日も美味しいお茶をゆったりと味わっていただければ幸いです。

[表]お茶に含まれる主な有効成分と効果効能

カテキン カフェイン ビタミン類 その他
  • 血中コレステロールの低下
  • 体脂肪低下作用
  • がん予防
  • 抗酸化作用
  • 虫歯予防、抗菌作用
  • 抗インフルエンザ作用
  • 血圧上昇抑制作用
  • 血糖上昇抑制作用
  • 口臭予防(脱臭作用)
  • 覚醒作用
    (疲労感や眠気の除去)
  • 持久力増加
  • 二日酔い防止
  • 利尿作用
ビタミンC

  • 皮膚や粘膜の健康維持
    (コラーゲン形成)
  • 抗酸化作用

ビタミンB2

  • 皮膚や粘膜の健康維持

葉酸

  • 神経管閉鎖障害の発症
    予防
  • 動脈硬化予防

β-カロテン

  • 夜間の視力維持

ビタミンE

  • 抗酸化作用
サポニン

  • 血圧低下作用
  • 抗インフルエンザ作用

フッ素

  • 虫歯予防

GABA

  • 血圧低下作用

ミネラル

  • 生体調節作用

クロロフィル

  • 消臭作用
テアニン
  • 神経細胞保護作用
  • リラックス作用(α波出現)
  • 血圧低下作用

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鈴木 隆雄 先生
  • 桜美林大学 大学院 特任教授
  • 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
老後をめぐる現実と課題(健康問題,社会保障,在宅医療等)について,長年の豊富なデータと科学的根拠をもとに解説,解決策を探る。病気や介護状態・「予防」の本質とは。科学的な根拠が解き明かす、人生100年時代の生き方、老い方、死に方。
鈴木隆雄・著 / 大修館書店・刊 
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