医療と健康
超高齢社会のリアル -健康長寿の本質を探る- 連載11「口福は幸福の源」
1)はじめに
皆様は「オーラル・フレイル」という言葉を耳にされたことがあるでしょうか?最近、コロナ・ウイルス禍もあって、健康に関わる言葉でカタカナ言葉が急に増えたような気がします。「ロック・ダウン」(都市封鎖)、「オーバー・シュート」(感染爆発)、「パンデミック」(世界的大流行)、などコロナ関係をはじめ、「フレイル」、「ロコモ(ロコモティブ・シンドローム)」、「サルコペニア」云々・・・。そんななかで、カタカナ語の苦手な方々には大変申し訳ないのですが、今回の話題もまた「オーラル・フレイル」というカタカナ語について取り上げることになりました。
2)オーラル・フレイルとは
オーラル・フレイルとは誰にでも等しく訪れる老化に伴う、口の機能の衰えを意味しています。口は食物を噛んだり、飲み込んだりする機能が重要なのですが、実はそれだけでなく、常に唾液(つば)が口の中を潤し、舌が滑らかに動き、言葉を明瞭にするなどいわば他者との滑らかなコミュニケーション、すなわち意思疎通の器官としても非常に重要な働きをもっているのです。オーラル・フレイルでは、加齢に伴って上記のような口(口腔)の全体的な機能の低下が進行していく状態のことを意味しています。
日本歯科医師会では、「オーラル・フレイルのセルフチェック表」を作成し、口の健康状態を把握し、オーラル・フレイルへの関心を持ってもらうために図-1の質問表を作成していています。全部で8項目の質問で合計の点数が4点以上となりますとオラール・フレイルの危険性が高いと判定されています。
[図1]オーラル・フレイルのセルフチェック表
オーラル・フレイルは大きく2つの面で、その衰えを感じることから始まります。1つは食事のときに「むせる」ことがしばしば出てきます。そして、堅い食品が噛めなくなり、食べこぼしが生じたりしてきます。もう1つの面としては、他者とのコミュニケーションが悪くなることです。口の中の舌の動きが悪くなり、唾液量も少なくなって口腔内が乾燥した感じ(ドライ・マウスといいます)が強くなり、滑舌が悪くなり、しゃべることが億劫になることです。
ここで挙げたオーラル・フレイルのサイン、すなわち「滑舌低下」、「食べこぼし」、「わずかなむせ」、「口の乾燥感」、「噛めない食品増加」などは、いずれもほんの些細な症状で、普段から気をつけていないと、容易に見逃しやすく、気づかずに過ごしやすいという特徴があります。さらに問題となるのは食事を楽しめなくなるということなのです。私達には、(コロナ禍の今はとっても残念なことですが)やっぱり親しい人達とワイワイしゃべりながら食事を楽しむ「共食」という社会的なつながりが必要不可欠なことなのです。
3)オーラル・フレイルを予防しよう
歳を取ると誰でもオーラル・フレイルが多かれ少なかれ出現してきます。私達がいつまでも健康で幸福な生活を送るためには、まず口の健康に注意しておくことです。まさに今回のタイトルのように「口福は幸福の源」なのです。
先程述べたように、まずはオーラル・フレイルの気が付きにくい特徴を常にチェックするようにしましょう。特に私が重視しているのは「わずかなむせ」です。食事中のむせこみは勿論のこと、一番危険なのは睡眠中の「むせ」なのです。睡眠中に唾液を間違って飲み込み、それがむせの原因となりますが、唾液が細菌で汚染されている場合、それが肺の中に入って炎症を起こす原因ともなります。従って睡眠中のむせは高齢者にとって恐ろしい誤嚥性肺炎の直接の原因となる可能性が大きいのです。
オーラル・フレイル、すなわちささいな口のさまざまな衰えに早く気付いて、早く予防対策をする必要があります。まず第一に口の中を清潔にしましょう。食後には丹念に歯を磨きましょう。義歯(入れ歯)も清潔な手入れが大切です。口の中・口の周りの関節を鍛えましょう。よく話す、本の音読、歌などの口と舌の運動になりますね。そしてお口のケアのためにかかりつけの歯科医をもつことも大切な予防にひとつとなります。図は日本歯科衛生士会が提案しているオーラル・フレイル対策のリーフレットからの引用ですが、誰でも今日から出来る易しいトレーニングですので、是非参考にして頂きたいと思います。
(日本歯科衛生士会;オーラル・フレイル対策リーフレットより引用)
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- 鈴木 隆雄 先生
- 桜美林大学 大学院 特任教授
- 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
- 超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
- 老後をめぐる現実と課題(健康問題,社会保障,在宅医療等)について,長年の豊富なデータと科学的根拠をもとに解説,解決策を探る。病気や介護状態・「予防」の本質とは。科学的な根拠が解き明かす、人生100年時代の生き方、老い方、死に方。
鈴木隆雄・著 / 大修館書店・刊
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