医療と健康
超高齢社会のリアル -健康長寿の本質を探る- 連載9「コロナ流行の今」
令和2年は年明けから、コロナ(正しくは「新型コロナウイルス」といいますが、略して「コロナ」とします)流行一色となりました。中国の武漢市に端を発したコロナの爆発的流行は、この原稿を書いている5月20日現在でも、全世界では480万人もの人々が感染し、死者数も32万人近くになっています。一方、日本では感染者数はおよそ1万6千人、死者も約760人を数えています。
テレビや新聞では毎日のように感染者数や死亡者数の増加を伝えるのは勿論のこと、社会に対しても深刻な影響を及ぼしていることを伝えています。確かに社会活動や国全体の経済活動の停滞、さらには人々の一変した日常生活の様子や経済的困窮など、わずか1、2ヵ月の間で予想もしてなかった世の中の変化が出現してしまいました。
コロナ感染は老若男女、誰にでも生ずるのですが、特に高齢者では感染しやすく、また重症化あるいは死亡しやすいことも判ってきました。これは高齢者では(若い時に比べて)免疫力が低下していたり、多くの慢性疾患(持病)を持っていたりと、感染した際の重症化の危険性(リスク)が高いことが理由と考えられます。高齢者では死亡率も高く、例えば最近の東京都の報告では、コロナ感染による死亡者126人のうち、最も割合の高いのは70代(40人、31%)、次いで80代(38人、30%)、そして60代(18人、14%)となり、死亡者全体の2/3(75%)を占めていることが明らかにされています。
コロナ流行によって高齢者の日常生活にも大きな変化が余儀なくされました。その最大の対策はいわゆる「三密」を避けようというものです。これは密閉空間(換気の悪い場所)、密集場所(人が密集)、そして密接場所(顔を近づけての会話)の三つの「密」を避けようということです。そのため、私達は不要不急の外出を控え、日々の多くの時間を自宅で過ごす「ステイホーム」が推奨されています。勿論、感染を防ぐことは大切なことですが、外出自粛が続き、家にずっと「閉じこもった」状態が続くことは高齢期の健康にとって好ましい状態ではありません。高齢者では(前号までのフレイル対策でもお伝えしたように)自宅に閉じこもることで日々の生活とくに身体活動が不活発となり、心身の機能が(自覚するよりもより大きく)低下してしまうことが心配されるのです。
そこで感染予防とともに、高齢者の皆さんが、健康的な在宅生活を送るために、心がけて頂きたいこと、大切なポイントをお知らせしたいと思います。
1.「毎日の生活にリズム」を持ちましょう。
外出をしない時間が増えると、日常生活が単調になったり、不規則になったりして、心身の健康に悪影響を及ぼす心配があります。できるだけ、一日のスケジュールを立て、食事の時間、家事の時間、趣味の時間、身体を動かす時間(散歩などの)、家族や友人との電話の時間などを作り、生活にメリハリを与えることが大切です。
2.体を動かしましょう。
家の中にいて、あまり動かないことはいわゆる「生活不活発病」をきたす可能性が大きくなります。家事や散歩などは運動でもあり、気分転換にもなります。勿論、高齢者向けの運動メニュー(無理のないスクワット、片足立ち、ひざ屈伸など)もお奨めです。
3.食事は三食。しっかり食べましょう。
体を動かさず不活発な生活では徐々に食欲不振になりやすく「低栄養状態」に陥る危険性が高くなります。一日三食、お肉・お魚・乳製品などの「たんぱく質」を意識的に摂ることです。和定食などの「一汁三菜」は主食・主菜・副菜がそろっておりバランスのよい栄養がとれるのでお奨めです。食事をおいしく、しっかり摂るためにはお口のケアや口の動きをよくする努力も必要となります。
4.みんなの支え合いが大切。
高齢期では人と人との「つながり」が重要なのですが、特に今の時期、そして一人暮らしの方には特に大切です。家族や友人・知人などと電話やメール、SNSなど自分でも楽しいと思える方法で、ちょっとしたおしゃべりだけでも交流を楽しみ、お互いに支え合えるよう努力してみましょう。
今回のコロナ流行は完全に終息するまでには、かなり長い時間が必要と思われます。これまでの体調管理の方法とは少し違った形での、いわば新しい生活スタイルに合わせた健康づくりが必要になるでしょう。三蜜による仲間との交流が難しくなるかもしれませんが、インターネットを活用したメールや顔を見ながらのおしゃべりなどにもチャレンジしてみてはいかがでしょうか? 是非とも自分の好みに合った健康づくりにトライしていただければと思います。
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- 鈴木 隆雄 先生
- 桜美林大学 大学院 特任教授
- 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
- 超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
- 老後をめぐる現実と課題(健康問題,社会保障,在宅医療等)について,長年の豊富なデータと科学的根拠をもとに解説,解決策を探る。病気や介護状態・「予防」の本質とは。科学的な根拠が解き明かす、人生100年時代の生き方、老い方、死に方。
鈴木隆雄・著 / 大修館書店・刊
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