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医療と健康

2023年02月27日

「心臓の老化―心房細動について」

今回は心臓の老化の一つである「心房細動(しんぼうさいどう)」についてのお話です。
心房細動って聞いたことありますか?読んで字のごとしで心臓の「心房」の部分が細かくブルブル震える(細動)状態のことを言います。若い人や中年期の元気な方にも見られますが、多くの場合、過労、睡眠不足、お酒の飲みすぎといった生活上のストレスが原因となります。もう一つの原因は加齢で、年を取ると心房細動の発生率が明らかに高くなります。一種の「心臓の老化」といってもいいでしょう。

心臓はご存じのように、全身に血液を送り出すポンプです。全身を回って帰ってきた血液がまず心臓の右側の上の部屋(右心房)に入ります。この時、右心房から電気信号が流れ、その後血液が右側の下の部屋(右心室)、さらに左側の下の部屋(左心室)が一気に収縮し、再び全身へと血液が押し出されるのです。この電気信号は1分間に60~90回発生し、上の部屋(心房)から下の部屋(心室)へと収縮が伝わり、常に規則正しいリズムで動いているのです(心臓の図)。ところが、このような心房からの電気刺激が多数発生すると、すべての刺激が心室まで続かない状態になり、いわば心臓自体が「ブルブル震える」ような状態になってしまいます。このような心房の異常な動きは当然心室の正常な収縮を妨げ、心臓全体の正常な収縮~拡張という働きが失われ、全体として不規則なリズムを生み出します。これを「心房細動」と呼んでいます。みなさんはよく心臓のリズム(脈)を手首などで確認しますが、心房細動では脈は規則性がなくバラバラに乱れた脈として感じられます。自覚症状は様々で、まったく無症状の方もいます。高齢者の方では「ドキドキして不快感がある」、「胸が苦しい」「息が切れる」、「疲れやすい」、「階段や坂道を上るのがきつい」などの自覚症状があることが多いようです。もちろん、自分で手首などの脈をとって、「脈が速い」とか「脈が飛ぶ」という表現をする方もおられます。いずれにしても脈の異常を感じた時は迷わず医師に相談してください。特に循環器を専門とする医師(循環器内科など)に心電図を確認してもらうのが必要不可欠です。心房細動は心電図では特徴的な波形が出現するため、比較的容易に診断が可能です(心電図の図)。

心房細動は先に述べましたが、若い人でも生活上のストレスなどで出現することもあるのですが、加齢に伴って発生率は高くなります。女性に比べ男性のほうが多く発生します。
心房細動にもいろいろな程度があり、時々発作的に出て多くは1週間以内に収まり、特に治療もなく経過を観察する程度で済む場合も多いのですが、何度も頻繁に出現し不快な自覚症状や不整脈が1週間以上も続くようであれば治療の対象となり、お薬を服用したり、電気ショックなどの治療も必要なことが起こります。また、心房細動の原因である心房での過剰な刺激が心室へと伝わることをブロックするためにカテーテルを用いて心房―心室間の刺激伝導路を直接「焼き切る」方法(「通電焼灼;アブレーション」といいます)も最近は良く用いられるようになりました。

特に75歳以上の高齢者の場合、高血圧や糖尿病、心不全、そしてすでに脳梗塞を経験されている方など、慢性疾患を持っていることが多いのですが、このような方での心房細動は(心臓のブルブルした震えによって)小さな血液の塊「血栓」ができやすく、その結果脳内に血栓が飛んでいき「脳梗塞」を引き起こす危険性が高まるため、特に注意が必要です。このような場合には血栓を予防するために血液を固まりにくくする薬(抗凝固薬といいます)を服用します。抗凝固役にはワーファリンというお薬が昔からよく用いられてきましたが、よく効くお薬ですが、例えば納豆との相性が悪く、納豆を食べるとその効き目が落ちてしまうなど、適用方法や適用量などは注意が必要ですのでやはり専門の医師によく相談することが必要です。

心房細動はそれ自体すぐに死に至るような致死的な病気ではありませんが、高齢期になると多くの方が経験したり、不快な症状、日常生活に支障が出るような症状、そして脳梗塞の危険性の高くなるなどの注意が必要となる病気ですので、普段から心臓の動きには十分な思いやりが必要です。いつまでも若々しい健康な心臓を保ち、元気な毎日を過ごしたいものです。

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鈴木 隆雄 先生
  • 桜美林大学 大学院 特任教授
  • 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
老後をめぐる現実と課題(健康問題,社会保障,在宅医療等)について,長年の豊富なデータと科学的根拠をもとに解説,解決策を探る。病気や介護状態・「予防」の本質とは。科学的な根拠が解き明かす、人生100年時代の生き方、老い方、死に方。
鈴木隆雄・著 / 大修館書店・刊 
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