医療と健康
「新しい歳、すずな・すずしろ・ビタミンC」
早いもので令和四年も暮れようとしています。 今年は(も?)振り返ってみると大変な年でしたね。新型コロナウイルスの流行は全く収まらず、現在も第8波として毎日10万人以上も新規の感染者が出ており、コロナによる死亡者も5万人を超えたと推定されています。さらにロシアがウクライナに侵攻し世界中を戦争の渦に巻き込んだという、とんでもない歳になったと思います。ウクライナでは罪もない子供をはじめ多くの人々が殺され、電力インフラなどを破壊され暖房のない、凍てつく寒さの中で暮らしているという信じられない状況になっているようです。もちろん日本もコロナや戦争、沈滞する経済状況などで、エネルギー問題や物価の高騰など大きな影響を受け続けた1年でした。来年こそは、少しでも明るく希望の持てる年にしたいと誰もが願っていることと思います。ぜひ平和で安寧な歳にしたいですね。
新しい歳を迎えるにあたって、まずは皆さんの健康づくりが大切です。歳の瀬~大晦日~元旦~松の内とご馳走が並ぶ日々が続くかもしれませんが、意外と新鮮な野菜が不足しやすいのです。 そんな中で、今回はお正月の定番、「七草がゆ」について書いておきたいと思います。
「せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ、これぞ春の七草」と、子供の時分に教えられ、今でも時々、言葉のゴロ合わせのように思い出します。1月7日頃は昔から「七草がゆ」を食べる習慣がありました。この七草がゆには昔から、無病息災や健康長寿を祈願する意味が込められ、まさに先人の知恵だと思います。日本でこの習慣が始まったのは、平安時代にまでさかのぼるらしく、ずいぶんと古くからの伝統のようです。おせち料理に疲れた胃を休め、野菜の少ない冬場に、ビタミンやミネラルなどの栄養素を摂るという、まさに理にかなった習慣ですね。
すずなはカブ、すずしろはダイコンのことですが、七草がゆに入れるいずれの葉にもビタミンCがたっぷりと含まれているのです。冬場には、新鮮な野菜が不足しやすく、ビタミンなどの知識がなかった昔は、食事の偏りや栄養不足で容易にビタミンCの不足を招きやすかったことが推定できます。 わが国でのビタミンC欠乏の有名な出来事として、幕末の頃に蝦夷地の警固を課された津軽藩では、それまで経験したこともない酷寒の地での越冬のため新鮮な野菜からのビタミンCをほとんど摂取することができず、例えば文化5年(1808年)には越冬した津軽藩兵250人中、実に109人が死亡し、そのほとんどが壊血病によって命を落としたと記録されています。当時壊血病は「青腿牙疳」と恐れられていました。歯ぐきがもろくなって出血(牙疳)するほか、膝関節や下腿の皮下などに内出血し(そのために大きな青あざが出来る=青腿)、体中の組織からの出血や腫れ痛みを伴い死に至る病だったのです。もちろんビタミンCなど全く知られていませんので(今とは違い)治療法もわからず、無念の死を遂げた方々も数多くいたことでしょう。
ビタミンCは皆さんもよく耳にしますし、何種類ものサプリメントも簡単に手に入ることから、現代日本ではビタミンCの摂取量は十分ですし、壊血病はまずお目にかかることはありません。しかし、最近このビタミンCには、これまであまり知られていなかった老化予防の大切な役割のあることが、知られるようになりました。ビタミンCは水溶性のビタミンで、科学的な名称は「アスコルビン酸」といいます。摂取したビタミンでの体内でも最も重要な作用は、体の全ての組織に必要なコラーゲンを作り出すために必要不可欠な栄養素なのです。とくにコラーゲンは、皮膚や骨、血管といった全身に張り巡らされている重要組織の強度を保っているのです。さらに、ビタミンCは抗酸化作用(活性酸素を除去する作用)が強く、皮膚のしわやたるみなどを改善したり、日焼けを防止するなどの美肌効果なども知られています。ですから、ビタミンCが不足すると体の基礎を作るたんぱく質(コラーゲン)の合成が障害され、老化が促進されることが明らかにもなっています。いわゆる抗老化作用もあるということです。現代日本人はビタミンCの摂取量はほぼ足りているのですが、季節的にみると秋が最も多く(平均156mg/日)、いっぽう春先が最も摂取量が低い(124mg/日)ことが知られています。お正月の七草がゆに限らず、1月、2月の頃はミカンなどの柑橘類など豊富なビタミンCを意識して摂るようにしたいものです。
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- 鈴木 隆雄 先生
- 桜美林大学 大学院 特任教授
- 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
- 超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
- 老後をめぐる現実と課題(健康問題,社会保障,在宅医療等)について,長年の豊富なデータと科学的根拠をもとに解説,解決策を探る。病気や介護状態・「予防」の本質とは。科学的な根拠が解き明かす、人生100年時代の生き方、老い方、死に方。
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