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2020年09月17日

「僅かばかりの 良い事した日 胸が仄かに 温かい」2020年9月入選作品|老友都々逸

老友新聞2020年9月号に掲載された都々逸入選作品をご紹介いたします。(編集部)

天の位

僅かばかりの 良い事した日
胸が仄(ほの)かに 温かい

高木 まつ

こんな或る日が誰にでもありますね。とり立てて他の人に話したり書き残したりする程のことではない細やかな良い事であるが故に―。

地の位

土の詰まった爪 切りながら
明日が待たれる 里帰り

飛田 芳野

歌意と全く異なることながら「忠臣蔵」大高源吾の台詞をふと思い浮かべさせられました。

人の位

香魚肴に 伏見の地酒
時の賜物 背越鮎

王田 佗介

「背越し」とは、ひれ・はらわたを取り中骨のあるままのぶつ切り。時の賜物は回り合わせのよい戴き物。香魚(あゆ)もお酒も神様のお取り成しとして感謝。お酒好きの雰囲気が溢れていますね。

十 客

コロナウイルス 呑みにも行けず
女房 お酌で 温かい

惣野代 英子

新型コロナ関連作、五章並びます。―男性に仮想して詠みましたね。下の句は願望でしょうが、男はどうして、どうして…。

自分にだけはと 過信をしても
寄って来るのよコロナ菌

鈴木 とく

「来るな菌」と呼んでやりましょうね、あいつを。

端切れ出しては 彩柄選び
そしてチクチク マスク縫う

向井 智恵子

当今、色々なマスクの柄に出逢えて感心しています。皆、ご研究なのですね。

コロナ恐ろし 世界は揺らぐ
医療チームに 先ず感謝

松本 タケ

今年の流行語一位はきっと「新型コロナ」でしょうね。

コロナウイルス カラオケ店が
設備したのに お客無し

黒木 弘

各所でコロナ倒産続出のニュース。恐ろしや。

蝶の番(つがい)が 二日も飛ばず
愛の扇に ブットレア

櫓木 香代子

アゲハチョウが蜜を吸いに来る綺麗な花、ブットレア。その花を蝶の愛を隠す扇と表現した感覚に拍手。

螢見たくて いで湯を訪ね
夢の中でも 追う螢

菊地 幸子

蛍の宿を訪ねた晩。夢の中でも蛍が出て呉れたのですね。

名誉 財産 なんにも無くて
姓だけ残して 蛍飛ぶ

倉澤 登美子

「蛍とぶ」と唐突に逃げたところに憎いあんちくしょうへの思慕の念の濃さが見えます。

雨に似合いの紫陽花だけど
続く雨には 褪せる色

勝亦 はる江

原作は「色も褪せ」でしたが、連用形で止めることを「川柳止め」と言って都々逸では避けるので手直しをして採用。それにしても長雨でしたね。

自粛自粛で 頭も自粛
都々逸 言葉が出て来ない

鈴村 三保子

それでは困りますが、自虐の面白さとリズムの軽やかさが卓越しています。

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