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コラム

2019年08月14日

「頭の体操」なんて言ってられません。高齢者でもITに背を向けては生きられない時代<市田ひろみ 連載36>

「スマホは何とか出来るけど、パソコンは今、習いに行ってるねん。せやけど、先生がA子さんにかかりきりで、私らの方へ来てくれはらへん。Aさん、よっぽどおぼえが悪いんや」
「いくつえ?」
「八十位や」
「中谷さんかて、先生を独占してはる。中谷さんは美人やし」
「美人?」
この時、座が白けて、一瞬教室は凍りついた。

中・高年層は、「SNSはついていけない」という人達と「何とかやってみよう」という人と、ほぼ大きく分かれているように見える。しかし、前向きの人とはいえ、やはり習得に力の差があり、
「先生、おねがい」
「先生」
となり、そこに微妙な空気が流れるのだ。先生は、机の間を縫って、出来の良い生徒も出来の悪い生徒もふくめて大忙しだ。

ちなみに私はIT落ちこぼれ生徒で、原稿はいまだに手書きだ。
企業や銀行のカウンターも、近い将来、ロボットに変わるそうだ。お客さんはロボットに話しかけるのだ。
銀行のカウンターに配置されたロボットに
「もしもし、これ、ハンコいりますの?」
するとロボットが
「ハイ、押して下さい」
「どこですか?一枚?」
「いえ、上・下、二か所です……」
考えただけでもいらいらする。困った時、迷った時、私たちのよりどころとなるのは「心」を持たないお人形さんなのだ。

ともあれ、このITが世界の若者達を動かせる力があることも私達は知った。文明の発達は人の心の情の部分を置き去って動いてゆく。
情報は、もはや世界のITを通じて一瞬にして動く。もはやITに背を向けては生きてゆけない。頭の体操どころではないのだ。

何ともはや、電気が無ければ生きてゆけない、すべての生物は逆向きに進化する。冷暖房、冷蔵庫、テレビ、洗濯機、一人暮らしには電子レンジが無ければ生きてゆけない。今更、洗濯板や火鉢など、無いではないか。文明開化で、新しい文明を拒否しながらも取り入れて、やがては馴染んで来たのだ。

人間の知恵は夢をつむぎながら現実のものとして、実用化してゆく。私達中高年がITという化物に逆らいつつ、肯定し、馴染み、やがて時代に寄り添ってゆくのだ。
ロボットがうちの茶の間に座っていたら、どんな風景か。
銀行へ行ったらロボットが手伝ってくれて、通帳なんて無くなるなんて――
もっといやなのは「自動運転」。運転手がいなくても車が走る。コワイー!!
本当にそんな時代が来るのか?日進月歩で、手から手へ繋いできた人間の物づくりの技はどうなるのか。思いやりや心づかいなどは、ITや自動運転の車のどこにあるのか。それは望む方が無理というものだ。

別のところに、人間同士の絆が残ってゆくのだろう。もしかしたらそこで、遂に人間らしい魂が暮らしの中の芯になってゆくのかも……?
(本稿は老友新聞本紙2018年3月号に掲載した当時のものです)

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市田 ひろみ
  • 服飾評論家

重役秘書としてのOLをスタートに女優、美容師などを経て、現在は服飾評論家、エッセイスト、日本和装師会会長を務める。

書家としても活躍。講演会で日本中を駆けめぐるかたわら、世界の民族衣装を求めて膨大なコレクションを持ち、日本各地で展覧会を催す。

テレビCMの〝お茶のおばさん〟としても親しまれACC全日本CMフェスティバル賞を受賞。二〇〇一年厚生労働大臣より着付技術において「卓越技能者表彰」を授章。

二〇〇八年七月、G8洞爺湖サミット配偶者プログラムでは詩書と源氏物語を語り、十二単の着付を披露する。

現在、京都市観光協会副会長を務める。

テレビ朝日「京都迷宮案内」で女将役、NHK「おしゃれ工房」などテレビ出演多数。

著書多数。講演活動で活躍。海外文化交流も一〇六都市におよぶ。

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