コラム
「美しい着こなし」~京都人は自然に季節を受けとめる。<市田ひろみ 連載29>
テレビをつければ
「熱中症に注意。お風呂からあがっても、朝起きても、水を飲んで…」
水分補給、水分補給。医療問題の番組はついつい見てしまうが、ほぼ「見るもの」ではなく、テレビも「聞くもの」になってしまった。
しかし、一人の医師がこう言っていた。
「水は飲みたい時に、飲みたい分量だけ飲んで下さい」
私は医者ではないが、このアドバイスに一番納得出来た。
今年の夏は特に暑かった。2020年の東京オリンピックも7月というから、きっと気温との戦いだ。
さて、この暑さで、私はきもので仕事している。
冷房の恩恵も受けながら、絽や紗に身をつつんで出かけている。京都人は昔から、季節をごく自然に受け止めるのだ。
「暑い暑い」
とは言わず、涼しげにふるまうのだ。
「あつおすなあ」
と、ひとこと。また、冬の寒さの中でも
「さむおすなあ」
のひとこと。
きものを世界遺産に申請しようと、今、少しずつ手順をふんでいるところだ。
私も「きもののある風景」というコンセプトを書いた。
お宮まつり、七五三、十三まいり、成人式、結婚式、葬式。日本人はおりふし、衣を正す。伝統芸能や祭のよそおいにも、伝統的なものがある。
もうそろそろ、成人式の衣装えらびが始まっているが、世界の成人式の中でも、日本の成人式ほど、はなやかで平和なものは他にない。
日本の成人式は、昭和23年に国民の祝日法で1月15日に制定された。20歳が対象だった。しかし、今はハッピーマンデー。毎年、日が変わるという困った祝日だ。
私は世界の民族服の研究で、世界中の成人式を見て来たが、精神性を重要としている。
アフリカ・ケニアにもいくつかの種族がいるが、マサイ族の場合も、成人式はきびしい。
マサイ族は遊牧民で、子供たちは牛をつれてサバンナを放牧する。少年たちは50㎝位の棒で牛を追う。棒の両端にはテニスボールのような丸く削った玉がついている。
サバンナには、突如としてライオンやシマウマやトムソンガゼルなどが出現する。ライオンが大きく口をあけて、襲いかかって来た時、玉のついた棒を口の中に突っ込む。一気にやるのだ。
躊躇していたら、逆に倒される。一瞬の勝負だ。少年の勇気と冷静さが生命を守る。
南アフリカでは、コーサ族の成人式を見た。
11歳になった少年は、身体中に白い粉をはたいている。小屋の中で、お母さんは少年の身体をなぐる、ける。少年は痛みにたえる。
1日1回、食事をあたえられる。たえて強い意志を持ち、大人の仲間入りだ。
大人の仲間入りをすると、労働に参加し、利益の分配を受ける。狩師なら大人と一緒に森に入る。漁師なら大人と一緒に魚をとる。そして利益の分配を受け、大人から生き方を学ぶ。
今は学校へ行ける人も多くなったが、アフリカの成人式は今尚、昔ながらの儀式で、権利と義務が表裏一体であることを学ぶのだ。(老友新聞社)
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- 市田 ひろみ
- 服飾評論家
重役秘書としてのOLをスタートに女優、美容師などを経て、現在は服飾評論家、エッセイスト、日本和装師会会長を務める。
書家としても活躍。講演会で日本中を駆けめぐるかたわら、世界の民族衣装を求めて膨大なコレクションを持ち、日本各地で展覧会を催す。
テレビCMの〝お茶のおばさん〟としても親しまれACC全日本CMフェスティバル賞を受賞。二〇〇一年厚生労働大臣より着付技術において「卓越技能者表彰」を授章。
二〇〇八年七月、G8洞爺湖サミット配偶者プログラムでは詩書と源氏物語を語り、十二単の着付を披露する。
現在、京都市観光協会副会長を務める。
テレビ朝日「京都迷宮案内」で女将役、NHK「おしゃれ工房」などテレビ出演多数。
著書多数。講演活動で活躍。海外文化交流も一〇六都市におよぶ。
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