コラム
年を重ねてもおしゃれを忘れないで…「人の見る目」<市田ひろみ 連載25>
私の経営する美容室は河原町二条。河原町通りに面していて人通りは多い。
もう4~5年も前になるが、美容室の前でタクシーを待っていたら
「あ、市田ひろみさん、『京都迷宮案内』見てますよ、応援してます!!」
と、軽いおしゃべり。
その後、2~3週間に一度くらいか、夕方6時頃、出逢うことが多い。
グレーヘアーにラフなジャケット。パパス風のおしゃれだ。
私と出逢うと
「やっぱりきものはよろしいなあ…」
「来週は寒波が来ますさかい、寒うなりまっせ」
立ち止まることなく、ひとことふたこと、声をかけて、手を振って通りすぎる。
80歳を過ぎた頃だろうか。姿勢が良いし、結構歩いている範囲も広い。
「博物館、行って来ましたえ。琳派誕生4百年ですなあ。ええもんは、あきが来ませんなあ」
いつもさりげなく声かけしてくれるおじさんは、どこの誰か分からないけれど、私のファンだと思っていた。
ファンは大切にしなければ……。
ところが、昨年12月。私がエレベーターを降りた時、そのおじさんが私の前を通りすぎて、バス停の方へ歩いてゆくのが見えた。
バス停の椅子には、高齢のおばあさんが一人座っていた。
おじさんは、おばあさんの耳元に
「風邪ひいてませんか? あったこうしてなあ」
私に声かけするように、笑顔で声かけして、さっさと二条通りの方へ歩いていった。
え?
私だけのおじさんと思っていたけれど、高齢者に声かけする親切おじさんだったのだ。
おじさんの真意は分からないけれど、優しい心づかいか?
友達がこんなことを話してくれた。
あるデパートの一角に、しそを使った美味しいおかきを置いている店があった。小さなスペースで、おじいさんが一人で接客している。
はかり売りのシステムだ。
友人がその店へおかきを買いにゆくと、手渡す時、必ず
「ちょっと多いめに入れときましたえ」
と言うそうだ。
何枚まけてくれたのかわからないけれど、悪い気はしない。
そのうちに、おじいさんは複数のお客に
「ちょっと多いめに入れときましたえ」
と言うことがわかって、でも、しその力で売れている。
「あなただけ」は、コミュニケーションの基本だ。
私の美容室に、とてもおしゃれ上手なお客様がいる。
80歳を超えて、なおトラディショナルなコーディネイト。
私はいつも
「素敵ですね」
と褒める。
「おしゃれの秘訣は何ですか?」
「大したことしてませんよ、スカーフかえるくらい」
私も同感だ。パットの流行が終わったら、パットをとる。短いコートが流行ったら、コートをちょっと短くする。スカーフは四角いのと長方形があるが、長方形の方が使いやすい。
スカーフ1枚でコーディネイトが演出できる。
年を重ねても忘れてはいけないのは「人の見る目」だ。
自分流のおしゃれを楽しんでほしい。(老友新聞社)
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- 市田 ひろみ
- 服飾評論家
重役秘書としてのOLをスタートに女優、美容師などを経て、現在は服飾評論家、エッセイスト、日本和装師会会長を務める。
書家としても活躍。講演会で日本中を駆けめぐるかたわら、世界の民族衣装を求めて膨大なコレクションを持ち、日本各地で展覧会を催す。
テレビCMの〝お茶のおばさん〟としても親しまれACC全日本CMフェスティバル賞を受賞。二〇〇一年厚生労働大臣より着付技術において「卓越技能者表彰」を授章。
二〇〇八年七月、G8洞爺湖サミット配偶者プログラムでは詩書と源氏物語を語り、十二単の着付を披露する。
現在、京都市観光協会副会長を務める。
テレビ朝日「京都迷宮案内」で女将役、NHK「おしゃれ工房」などテレビ出演多数。
著書多数。講演活動で活躍。海外文化交流も一〇六都市におよぶ。
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