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コラム

2018年04月13日

年を重ねてもおしゃれを忘れないで…「人の見る目」<市田ひろみ 連載25>

私の経営する美容室は河原町二条。河原町通りに面していて人通りは多い。

もう4~5年も前になるが、美容室の前でタクシーを待っていたら

「あ、市田ひろみさん、『京都迷宮案内』見てますよ、応援してます!!」

と、軽いおしゃべり。

 

その後、2~3週間に一度くらいか、夕方6時頃、出逢うことが多い。

グレーヘアーにラフなジャケット。パパス風のおしゃれだ。

私と出逢うと

「やっぱりきものはよろしいなあ…」

「来週は寒波が来ますさかい、寒うなりまっせ」

立ち止まることなく、ひとことふたこと、声をかけて、手を振って通りすぎる。

80歳を過ぎた頃だろうか。姿勢が良いし、結構歩いている範囲も広い。

「博物館、行って来ましたえ。琳派誕生4百年ですなあ。ええもんは、あきが来ませんなあ」

いつもさりげなく声かけしてくれるおじさんは、どこの誰か分からないけれど、私のファンだと思っていた。

ファンは大切にしなければ……。

 

ところが、昨年12月。私がエレベーターを降りた時、そのおじさんが私の前を通りすぎて、バス停の方へ歩いてゆくのが見えた。

バス停の椅子には、高齢のおばあさんが一人座っていた。

おじさんは、おばあさんの耳元に

「風邪ひいてませんか? あったこうしてなあ」

私に声かけするように、笑顔で声かけして、さっさと二条通りの方へ歩いていった。

え?

私だけのおじさんと思っていたけれど、高齢者に声かけする親切おじさんだったのだ。

おじさんの真意は分からないけれど、優しい心づかいか?

 

友達がこんなことを話してくれた。

あるデパートの一角に、しそを使った美味しいおかきを置いている店があった。小さなスペースで、おじいさんが一人で接客している。

はかり売りのシステムだ。

友人がその店へおかきを買いにゆくと、手渡す時、必ず

「ちょっと多いめに入れときましたえ」

と言うそうだ。

何枚まけてくれたのかわからないけれど、悪い気はしない。

そのうちに、おじいさんは複数のお客に

「ちょっと多いめに入れときましたえ」

と言うことがわかって、でも、しその力で売れている。

 

「あなただけ」は、コミュニケーションの基本だ。

 

私の美容室に、とてもおしゃれ上手なお客様がいる。

80歳を超えて、なおトラディショナルなコーディネイト。

私はいつも

「素敵ですね」

と褒める。

「おしゃれの秘訣は何ですか?」

「大したことしてませんよ、スカーフかえるくらい」

私も同感だ。パットの流行が終わったら、パットをとる。短いコートが流行ったら、コートをちょっと短くする。スカーフは四角いのと長方形があるが、長方形の方が使いやすい。

スカーフ1枚でコーディネイトが演出できる。

年を重ねても忘れてはいけないのは「人の見る目」だ。

自分流のおしゃれを楽しんでほしい。(老友新聞社)

 

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市田 ひろみ
  • 服飾評論家

重役秘書としてのOLをスタートに女優、美容師などを経て、現在は服飾評論家、エッセイスト、日本和装師会会長を務める。

書家としても活躍。講演会で日本中を駆けめぐるかたわら、世界の民族衣装を求めて膨大なコレクションを持ち、日本各地で展覧会を催す。

テレビCMの〝お茶のおばさん〟としても親しまれACC全日本CMフェスティバル賞を受賞。二〇〇一年厚生労働大臣より着付技術において「卓越技能者表彰」を授章。

二〇〇八年七月、G8洞爺湖サミット配偶者プログラムでは詩書と源氏物語を語り、十二単の着付を披露する。

現在、京都市観光協会副会長を務める。

テレビ朝日「京都迷宮案内」で女将役、NHK「おしゃれ工房」などテレビ出演多数。

著書多数。講演活動で活躍。海外文化交流も一〇六都市におよぶ。

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