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2018年03月20日

成人式でのトラブルは昨年も…「ブーツ事件」<市田ひろみ 連載24>

平成29年のこと。この年のお正月は大寒波。自宅の前の、京都御苑の雪景色は圧倒的な美しさ。
よく富士山のそばに近づくと
「ああ、こんなところに住んでいたら、毎日富士山見られるなあ」
と思っていたけれど、京都御苑と隣接する我が家は、巨大な四季のパノラマを楽しめる。

大寒波の1月15日は、たまたま自宅でショーの台本を書こうと思っていたので、雪景色を楽しみながら台本を書いた。
去年の夏は暑さに苦しんだけれど、この日の寒さは日本中はげしい冷たさの寒波だった。

去年の暮になって、文化庁長官賞を頂いた。文化庁と同時に、昨年の12月はあと2つも頂いた。文部科学省から社会教育功労者賞を頂き、大日本蚕糸会から蚕糸功績者表彰もうけた。
なんと1カ月に3つも頂いた。今は亡き父母が元気だったら、喜んでくれたのに……。
明治の親の教育はまちがっていなかった。
でもね、やっぱり人間、日常性が大切だね。何かあった時、その人の評価が見えるものね。気をつけないと……。

その年の1月9日。成人式は毎年振袖が華やかだ。
私の経営する美容室も、一週間前から着付け予約を頂いた方々の振袖でいっぱいになっていた。

今年特徴的だったのは、自前の振袖より貸衣装の振袖が多かったことだ。
振袖を持っていると、成人式のみならず、お茶会やお友達の結婚式、お稽古事の発表会など、着る機会は多い。着る時に、毎回貸衣装では面倒なことだろう。
そして何よりも、毎年、
「母が成人式の時に着たものですけど、一度見ていただけませんか」
という依頼がある。
確かに、20年前のものだから、新しいものとどこか質感が違うが、そんなことは、ちっとも恥ずかしいものではない。
伝統柄は流行に左右されるものではない。成人式の記念に、母のきものを着るというのは、家の歴史をつないでゆくものだ。

「ぞうり、間違えたのですけど」
確かに、新しいぞうりが間違った方と入れかわり、残っていた。無事、持ち主の方にそれぞれもどった。

こんなこともあった。
「ブーツ、間違ってるんですけど、残っていませんか?」
「すぐ調べてお返事します」
それから一週間かけて、ブーツを調べた。
黒・バックスキン・ひざ下ブーツ。もっとも一般的なブーツだ。

一カ月たったある日。間違ったであろう方のお嬢さんと連絡がついた。
「知らないブーツが入ってましたので……」
面倒くさそうな電話の向こうから
「あのブーツのことでかかってるよ」
電話の向こうの声がまる聞こえだ。
「かわろうか?」
お母さんの声が響いた。
「はあ、入ってましたわ、黒いブーツでしょ。娘のブーツと似てましたわ。でも、うちの娘のとは違いますしなあ、捨てましたわ!!」
「ええ?」

びっくりで、言葉がつづかなかった。
何故、一本の電話がかけられなかったのか。1カ月かかったブーツ事件は後味の悪い結果で終わった。(老友新聞社)

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市田 ひろみ
  • 服飾評論家

重役秘書としてのOLをスタートに女優、美容師などを経て、現在は服飾評論家、エッセイスト、日本和装師会会長を務める。

書家としても活躍。講演会で日本中を駆けめぐるかたわら、世界の民族衣装を求めて膨大なコレクションを持ち、日本各地で展覧会を催す。

テレビCMの〝お茶のおばさん〟としても親しまれACC全日本CMフェスティバル賞を受賞。二〇〇一年厚生労働大臣より着付技術において「卓越技能者表彰」を授章。

二〇〇八年七月、G8洞爺湖サミット配偶者プログラムでは詩書と源氏物語を語り、十二単の着付を披露する。

現在、京都市観光協会副会長を務める。

テレビ朝日「京都迷宮案内」で女将役、NHK「おしゃれ工房」などテレビ出演多数。

著書多数。講演活動で活躍。海外文化交流も一〇六都市におよぶ。

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