コラム
失ってはいけない日本の原風景「餅つき」…それは雪国の歓迎の響きでした<市田ひろみ 連載23>
新春。ノロウイルスの流行で、一部気がかりな空気が流れた。「お鏡つき」も中止しなければならない地域も出てきた。
日本の各地で行われる餅つきは、日本の正月の原風景であり、市町村では御近所さんとの共同作業でもあった。
私もあちこちで餅つきの風景を見たけれど、思い出にのこるツアーがある。呉服屋さんの雪国へのツアー、新潟・南魚沼郡六日町温泉の「龍言」の旅だ。※
雪深い2月か3月の行事で、人気があり、20人くらいのグループで、私も4~5会同行した。
旅館について、チェックインすると、早速餅をつく音が始まる。
玄関の間に走る。何回も参加している人は流れを知っていて、爐端に座している。いつもの雪国の歓迎の響き。
そろそろ餅がつきあがる。小皿にあずきをまぶした丸餅と、きなこをまぶした丸餅。
客につきたての餅がくばられる。
私はこの歓迎の持ちつきの風景を忘れることが出来ない。
新潟はきもの産地としても魅力的だ。越後上布、小千谷縮、十日町紬など。私の夏のきもの暮らしを支えてくれているのが麻のきものだ。
ツアーに参加している人たちは、いずれも「きもの通」の人たちで、伝統的な作品は今も人気だ。
上越の作品を勉強して雪景色を見ながら美味しいお酒を頂き、その上、京の冬の風景とは違う日本の失ってはいけない風景を楽しめる。
都会の食生活は今、アレルギーという見えない敵と対峙している。おそば、牛乳、鶏、玉葱など、かつての日本の食生活が、見えない敵におかされていたのだろうか。
何回か手を洗えば、ノロウィルスも死んでくれるのに。
たしかに膨大な輸入食品をチェックするのも大変だ。
1968年、私の最初のヨーロッパの旅で驚いたのは、水を買うということだ。
日本の水は、水道から充分美しい水が出るから……と思いつつも、今は日本でも水を買うことになってしまった。
ボーダレスの時代に入りつつある日本で、食生活の安全を言うなら、生産地、製造地までたどっていかなければならないから、行政を信じるしかない。
我が家の近くの京都御苑に「染井の井戸」がある。平安時代から名水として知られていて、今もペットボトルを持って、水をもらいに来ている。
地下水を頂けるように、ポンプが併設されているが、そのポンプのある梨ノ木神社に参拝するでなく、賽銭をいれるわけでなく、無料で清水をもらって帰るのだ。
安心・安全の暮らしを考えると、やはり秩序を知らせてゆくことが大事だ。
外国からの観光客が多いことのひとつに、日本の治安の良さがあるが、同時に、驚く程清潔な環境の評価がある。
日本人のきれい好きのあらわれ。きもの姿でも、一番よごれやすい衿と足袋に白をもってきて、それがよごれないように衣生活を送るのだ。
餅つきという共同生活の中に、安全への情報交換があるし、人間同士のコミュニケーションが生まれる。
また、いつの日か、あの雪の日の風景を見に行きたいと思っている。(老友新聞社)
※龍言…新潟、六日町の温泉御宿
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- 市田 ひろみ
- 服飾評論家
重役秘書としてのOLをスタートに女優、美容師などを経て、現在は服飾評論家、エッセイスト、日本和装師会会長を務める。
書家としても活躍。講演会で日本中を駆けめぐるかたわら、世界の民族衣装を求めて膨大なコレクションを持ち、日本各地で展覧会を催す。
テレビCMの〝お茶のおばさん〟としても親しまれACC全日本CMフェスティバル賞を受賞。二〇〇一年厚生労働大臣より着付技術において「卓越技能者表彰」を授章。
二〇〇八年七月、G8洞爺湖サミット配偶者プログラムでは詩書と源氏物語を語り、十二単の着付を披露する。
現在、京都市観光協会副会長を務める。
テレビ朝日「京都迷宮案内」で女将役、NHK「おしゃれ工房」などテレビ出演多数。
著書多数。講演活動で活躍。海外文化交流も一〇六都市におよぶ。
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