コラム
マコのよもやま話 | 和泉 雅子
連載25 石坂君と関口君
テレビ界は楽しい。テレビで見ていた俳優さん達に逢える。テレビに出はじめの頃は、NHKが多かった。夜8時のドラマ、夜10時の銀河ドラマ、大河ドラマ、ミュージカル。ほとんどNHKに通っているようだった。
夜の8時ドラマで、なんと、石坂君(石坂浩二さん)と共演。石坂文学の『日のあたる坂道』だ。裕ちゃん(石原裕次郎さん)の役を石坂君が。まこちゃん(北原三枝さん・本名まき子さん)の役を私が。川地民夫さんの役をまさかっちゃん(田村正和さん)が。石坂君は、テレビで見ていたまんま。イケメンでかっこいい。みとれてしまう。
テレビの収録は、実に忙しい。映画なら、1カ月で1本撮り終わるが、テレビは2日のリハーサル、2日の本番で1本収録してしまう。毎日がせりふに追われる日々だった。
なんと言っても石坂君との共演。がんばってせりふを覚えて、本番前のリハーサルまで完璧。ところが、本番になるとせりふが出てこない。ポーッと石坂君にみとれてる。NGの連続。石坂君、我慢も限界「君、大っきらい」「ごめんね。ついみとれて、お芝居がどっかへ行っちゃうの。ちゃんと役になりきりまーす」
このドラマをたまたま見ていたフー先生(石井ふく子先生)に声をかけていただき、東芝日曜劇場に出演。『正子絶唱』だ。日曜劇場始まって以来の前・後編。共演は、なんと、石坂君。その後スタートした連続ドラマ『ありがとう』も、又々石坂君と共演。石坂君と、8年近く共演できた。マコ、ラッキー。ヤッターマン。
さて、関口君(関口宏さん)とは、多くのドラマでコンビを組んで、共演した。実は関口君、日活映画に出演している。お正月映画の『四つの恋の物語』サー姉ちゃん(吉永小百合さん)の恋人役だ。おだやかな、青春真っ只中の大学生に逢ったのは、初めて。うわー、すてきー、とファンになった。
初コンビは、日活のテレビ映画で『花と果実』。この作品は、私が映画でやった作品だ。その時の相手役が、デビューしたばかりの杉君(杉良太郎さん)だ。ポスターのスチール撮りの日、宣伝部や演技課から、多くの人が見に来て物々しい。ほっそりしていて、爽やかな青年の杉君。将来、すごいスターになるかもしれない、と、ふっと、思った。
関口君とは、TBSの連続ドラマでもコンビを組み、このドラマがシリーズ化されたため、永い間共演した。私は、せりふ覚えが苦手で、醤油をつけて台本を食べたら覚えられる、と言うのなら、本当にそうしたかった。でも、関口君は違う。ギリギリまで台本を持って演技をする。本番前のライティングの手直しの間、カメラさんの台本をペラペラと見て、本番は見事にせりふを言う。こんな天才みたことがない、と感心した。
ある日の、ライティングの手直しの時、関口君が私に、ポツンと言った。「ねえ、マコちゃん。僕ね、真っ直ぐ前を向いて歩いていたのに、明日から、クルッとふりむいて、ちがう道を歩くんだ」「えっ!関口君、あのう、なんかあ、悪いこと、したのお」「あ、いやいや、マコちゃんには、わからないよねえ」
その翌日のことだった。関口君と西田のおねえちゃま(西田佐知子さん)の婚約発表があり、新聞もテレビも大騒ぎだった。
西田のおねえちゃまとは、フジテレビの『夜のヒット速報』で、黒パン(黒澤明監督の長男、久雄さん)と司会をしていたので、顔見知りだった。ある日、おねえちゃまの歌のリハーサル中にセットの柱が倒れてきた。とっさに掛け付け背中で受け止め、おねえちゃまは無事。これがきっかけで仲良しになった。そのおねえちゃまと関口君が結婚。関口君、ついうれしくって、内緒にしておけなくて。折角、発表前日に教えてくれたのに。もう、私ったら、気がきかない。まったく気がつかない。関口君、ごめんね。だって私、恋路はさっぱりなんだもん。じゃあ、またね。
この記事が少しでもお役に立ったら「いいね!」や「シェア」をしてくださいね。
- 和泉 雅子
- 女優 冒険家
- 1947年7月東京銀座に生まれる。10歳で劇団若草に入団。1961年、14歳で日活に入社。多くの映画に出演。1963年、浦山監督『非行少女』で15歳の不良少女を力演し、演技力を認められた。この映画は同年第3回モスクワ映画祭金賞を受賞し、審査委員のジャン・ギャバンに絶賛された。以後青春スターとして活躍した。
1970年代から活動の場をテレビと舞台に移し、多くのドラマに出演している。
1983年テレビドキュメンタリーの取材で南極に行き、1984年からは毎年2回以上北極の旅を続けている。1985年、5名の隊員と共に北極点を目指したが、北緯88度40分で断念。1989年再度北極点を目指し成功した。
余技として、絵画、写真、彫刻、刺繍、鼓(つづみ)、日本舞踊など多彩な趣味を持つ。 - 主な著書:『私だけの北極点』1985年講談社、『笑ってよ北極点』1989年文藝春秋、『ハロー・オーロラ!』1994年文藝春秋。
- 今注目の記事!