コラム
マコのよもやま話 | 和泉 雅子
連載18 光陰矢の如し
コーちゃん(越路吹雪さん)は、予言者なのかしらん。コーちゃんのアドバイス通りにしたら『二人の銀座』は見事に大ヒット。百万枚を突破した。ゴールデンレコード賞まで頂き、コーちゃんて、本当にすごい。私、19才の春でした。
でも、私運がいい。日本の歌謡界では、外国人が作曲した楽曲は、ベストテンやレコード大賞のような各局の賞には入れず、まったく出番がなかった。ホッとした。あんな難しい曲を生放送で歌うなんて、無理だからだ。レコードが大ヒット中なので、テレビ局の苦肉の策。特別コーナーで呼ばれることがあった。でも私、一度もちゃんと歌えたことがない。勝手に作詞はしないが、勝手に作曲はしょっちゅうだった。公開生放送で歌った時、急に音程がわからなくなり、マイクが壊れたふりをして、口だけパクパクあけて歌っているふりをした。音声さん、マイクさん、ごめんなさい。
レコードが発売されて三年たったある日、レコード大賞から電話があった。
「やっと日本は、外国人が作曲した楽曲が、ノミネートされることになりました。そこで、ベンチャーズの一連の曲が特別賞と決まりましたので、ご出演下さい」
私とケンちゃん(山内賢さん)の『二人の銀座』『東京ナイト』奥村チヨちゃんの『京都の恋』歐陽菲菲さんの『雨の御堂筋』が評価されたようだ。なんだかわからないけど、レコード大賞に出演することになってしまった。レコード大賞の司会はしたことがあるが、まさか歌で出演するとは。人生、何が起きるかわからないものである。20代の暮れでした。
NHKの夏の紅白があり、久々呼ばれた。会場が横浜だったが、この日は台風。当然、長ぐつを履いていった。が、本番は浴衣を着る。靴を忘れてしまった。リハーサルは、Tシャツにバミューダズボンと長ぐつでステージに立った。同級生の伊藤ゆかりちゃんが
「なあに、雅子ちゃん、長ぐつ?」
とあきれ顔だった。久々の音楽番組。本番中、森君(森進一さん)やさゆりちゃん(石川さゆりさん)達とワーワーおしゃべりしていたら、出番がきた。私、急に『二人の銀座』の歌詞を忘れた。
「ケンちゃん歌詞忘れちゃった」
「えええー」
その途端前奏が始まった。
「ア、思い出した」
とステージへ。私、思い出したので、堂々と楽しく。ケンちゃんはオロオロ、ヒヤヒヤ、ドキドキ。無事終了。ひっこんできた途端
「マコちゃん、ひどいよ」
「わざとじゃないよ。本当に忘れちゃって、本当に思い出したの。ごめんねえ」
なんとも、ドタバタの夏の紅白でした。30代の夏でした。
還暦をすぎたころ、久々ケンちゃんから電話があった。
「僕、肺ガンなんだ。『二人の銀座』CDでやりたい。協力してくれる」
実は、ケンちゃんやベンチャーズにいくら頼まれても、お断りしていた。が、急に考えを変更。ケンちゃんが出演したい歌番組は、全て引き受けた。CDのレコーディングも引き受けた。ケンちゃんに逢うたびに
「ハーイ、肺ガンボーイ!」
と挨拶した。帽子を被るようになると、私も必ず帽子を被った。CDの打ち合わせの時だった。
「マコちゃん、年とっちゃったからさ、キーを下げてもいいかなあ」
「残念。キーを下げると私、どんな曲かわからなくなっちゃうの。だって、お経のように覚えたから」
そこで、いつも通りのキーで、レコーディング。ケンちゃん、金切り声でがんばってくれた。60代の出来事でした。
最近、ものまねのミラクルひかるさんが『二人の銀座』で私のものまね。どうやら、レコード大賞の時の映像で研究したようだ。髪型から服装まで、そっくり。歌に至っては、私だけが知っている細かいところまで、そっくり。ミラクルひかるさん、本当にすごい。天才。つい先日、若い歌手の人がこの曲を歌ってくれた。まさか、『二人の銀座』が誕生して、56年後にこんな光景を見るとは。光陰矢の如し、である。じゃあ、またね。
この記事が少しでもお役に立ったら「いいね!」や「シェア」をしてくださいね。
- 和泉 雅子
- 女優 冒険家
- 1947年7月東京銀座に生まれる。10歳で劇団若草に入団。1961年、14歳で日活に入社。多くの映画に出演。1963年、浦山監督『非行少女』で15歳の不良少女を力演し、演技力を認められた。この映画は同年第3回モスクワ映画祭金賞を受賞し、審査委員のジャン・ギャバンに絶賛された。以後青春スターとして活躍した。
1970年代から活動の場をテレビと舞台に移し、多くのドラマに出演している。
1983年テレビドキュメンタリーの取材で南極に行き、1984年からは毎年2回以上北極の旅を続けている。1985年、5名の隊員と共に北極点を目指したが、北緯88度40分で断念。1989年再度北極点を目指し成功した。
余技として、絵画、写真、彫刻、刺繍、鼓(つづみ)、日本舞踊など多彩な趣味を持つ。 - 主な著書:『私だけの北極点』1985年講談社、『笑ってよ北極点』1989年文藝春秋、『ハロー・オーロラ!』1994年文藝春秋。
- 今注目の記事!