コラム
マコのよもやま話 | 和泉 雅子
連載16 歌う日活スター
日活の歌う映画スターといえば、なんてったって、裕ちゃん(石原裕次郎さん)だよねえ。
『俺は待ってるぜ』『嵐を呼ぶ男』『錆びたナイフ』『赤いハンカチ』『夜霧よ今夜も有難う』『銀座の恋の物語』。さて、何曲歌えましたか。
『口ずさんでいると、映画のワンシーンまで浮かんできて、主題歌って、ほんとに楽しい。そして、なんてったって、サー姉ちゃん(吉永小百合さん)『寒い朝』『いつでも夢を』『伊豆の踊子』…クッと空を見上げて、小さなお口を精一杯あけて歌う姿は、まさしく、清純スターそのもの。サー姉ちゃんはピアノがお得意で上手で、譜面も読める。すごい。かっこいい。非の打ち所がない。
ちょっと意外なのが、入社4年後輩の渡君(渡哲也さん)だ。朴訥で素朴な歌い方だが、中年のお姉さま達を虜にした。お姉さま達曰く「たまらなーい」らしい。そういえば、渡君が入社したてのころ、撮影所の裏門の前にある多摩川の土手で、空手の道着を着て、明星のグラビア撮影をした。なんと渡君、空手の有段者とか。緊張していたのか、偶然ケリが当たってしまい、私プンプン。渡君青ざめて必死にあやまっている。年上なのに、幼い坊ちゃんのように見えて、思わず「大丈夫」。全員ホッとした。
さて、主題歌を決して歌ってはいけないのが、高橋君(高橋英樹さん)と私である。ある時高橋君が主題歌を歌った。「高橋君、へたくそだなあ」「まさこより、ましだ。まいったか」下手な歌を、声をはりあげて堂々と歌わせるのだから、日活って、たいしたものである。
私は子供の頃から音痴。絶対に歌う日活スターの仲間入りだけはしない、と、かたく決心していた。が、雲行きが怪しくなってきた。
銀座の家がビルに建てかえるため、四谷三丁目に引っ越し、初めて私の部屋ができた。今まで畳に布団だったが、なんと、ベッドで寝ることになった。まるで外国映画のようだ。
そうだ、じゃあ、ピアノがいる。ピアノを買った。折角なのでピアノを習うことにした。さっそく先生をお願いして、レッスン。見事に才能なしだった。あきれた先生、しかたなく歌のレッスンに切り替えた。ところが私、大音痴。きっと先生、教え甲斐があったに、ちがいない。
ある時、先生、二人の東芝レコードのデレクターさんを連れてきた。一人は歌謡曲と演歌のデレクター。もう一人は、坂本九ちゃんたちのポップスのデレクター。絶体絶命。何か秘策はないか。先生「じゃあ、発声練習ね」ここだ。これだ。
先生のピアノがジャーン。私、お経のように一本調子で「ドレミファソラシド。ドシラソファミレド」演歌のデレクターさん怒って帰ってしまった。やったあ、作戦成功。と、思ったとたん「私が引き受けます」とポップスのデレクターさん。「えええー!」
どこでどう調べるのかわからないが、撮影所から家に帰ってくると、ポップスのデレクターさんが待っている。「マコチン、レッスンしましょ」これが一年も続いた。
デレクターさんの教え方が上手だったのか、私が根負けしたのか、不覚にも一枚目のレコードが発売されてしまった。私のラッキーカラーがオレンジとわかると、ジャケットの袋はオレンジに。歌詞カードは写真集のようなポートレートになった。
A面は『めぐり逢う日は』吉田央作詞、中村二大作曲、編曲。B面は『幸せの花を咲かせよう』きむらりひと作詞、中村二大作曲、編曲。演奏、高見健三とミッドナイト・サンズ。コーラス、八大シンガーズ。豪華メンバーに守り立ててもらい、レコードデビューした。
一枚出したのだから、もうこれでレコードは終わり。と、思っていた。
甘かった。終わりではなかった。なぜか有名な作詞家、作曲家が、ジャンジャン曲を書いてくる。どんどんレコードを出す羽目になる。もう、歯止めがきかない。なんでえ。どうしてえ。こうなるのお。
じゃあ、またね。
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- 和泉 雅子
- 女優 冒険家
- 1947年7月東京銀座に生まれる。10歳で劇団若草に入団。1961年、14歳で日活に入社。多くの映画に出演。1963年、浦山監督『非行少女』で15歳の不良少女を力演し、演技力を認められた。この映画は同年第3回モスクワ映画祭金賞を受賞し、審査委員のジャン・ギャバンに絶賛された。以後青春スターとして活躍した。
1970年代から活動の場をテレビと舞台に移し、多くのドラマに出演している。
1983年テレビドキュメンタリーの取材で南極に行き、1984年からは毎年2回以上北極の旅を続けている。1985年、5名の隊員と共に北極点を目指したが、北緯88度40分で断念。1989年再度北極点を目指し成功した。
余技として、絵画、写真、彫刻、刺繍、鼓(つづみ)、日本舞踊など多彩な趣味を持つ。 - 主な著書:『私だけの北極点』1985年講談社、『笑ってよ北極点』1989年文藝春秋、『ハロー・オーロラ!』1994年文藝春秋。
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