コラム
マコのよもやま話 | 和泉 雅子
連載13 ダックス・フントと白色レグホンの戦い
テレビで『名犬ラッシー』が流行ると、そこいら中、コリーだらけになる。
『名犬リンチンチン』が流行ると、シェパードだらけになる。忠犬ハチ公の秋田犬は、世界中が愛した。土管に手足のダックス・フントは、なかなか犬のスターになれない。
実は私、長い間困っていた。ダックス・フントなのか、フンドなのか、どっちだろうと。このたび、老友新聞社に調べてもらったら、面白いことが分かった。「フント」はドイツ語で、「フンド」は英語だということだ。私、ドイツ語の草津節が得意なので、今回はドイツ語で統一することとする。なぜ、この犬にこだわったかというと、私が高橋君(高橋英樹さん)につけた「アダナ」だからだ。
日活に入社して間もなく、高橋君との初共演は『ひとつのいのち』だ。高橋君、高校三年生。私、中学二年生。学校の中間試験や期末試験の前は、撮影中二人共、単語帳で勉強。「高橋君、明日は何の試験」「ぼく英語。マサコは」「私、国語」なんて会話。高橋君は、お父さんが校長先生なので、真剣に勉強。私は勉強が大嫌いなので、やってるふり。私達二人共、学生コンビだった。
二本目の映画『若者に夢あり』の衣装合わせの時のことだ。衣装部さん「これ、裕ちゃん(石原裕次郎さん)のズボンだけど、合わせてみて」。衣装は、皆が使いまわしをする。ルリちゃん(浅丘ルリ子さん)の衣装を私が着たりもする。高橋君、さっそく裕ちゃんの白いズボンを履いてみた。なんと、裾が長袴のようになってしまった。裕ちゃんと高橋君、身長は同じなのに、足の長さが大違い。急に私の頭の中に、あの、土管に手足の犬が浮かんだ。「高橋君、ダックス・フント」と笑いころげた。ピッタリ言い当てられて、くやしそうな高橋君。「なんだ、白色レグホン」とお返しがきた。
白色レグホンも長年意味がわからず老友新聞社に調べてもらったら、卵を産むニワトリだった。ニワトリと言えばいいのに、ややこしい。この日から、ダックス・フントと白色レグホンの戦いが始まったのであります。
裕ちゃんが『花と竜』で、初の着物姿を披露した。ところが、足が長すぎて帯の位置が上の方になり、着物が似合わない。「やっぱり裕ちゃんは洋服がいい」との上層部の意見で、次回作の『男の紋章』は、高橋君と私がやることになった。胴が長くて、足が短い私達なら、着物バッチリだもの。上層部、お目が高い。なんと『男の紋章』は大当たり。シリーズ化され、10本も撮った。
後にテレビの『桃太郎侍』に出演したが、いつ逢っても高校生と中学生のまんま。東映の撮影所内を、平気でお手々つないで歩いている。まわりのスタッフはびっくりして見ていたが、これが、日活スタイルなのだ。何才になっても学園広場の仲間なのだ。
近年、橋蔵ちゃん(大川橋蔵さん)の舞台で、橋蔵ちゃんの推薦で相手役をつとめた。大阪の新歌舞伎座での一カ月公演。そのお芝居を今度は、東京の明治座でと決まっていたが、残念ながら橋蔵ちゃんが入院。ピンチヒッターを買ってくれたのが高橋君だった。久々の舞台共演である。
お芝居のあとは、もれなく舞踊ショーがある。私は『明治一代女』を踊った。次は高橋君。私が終わると、大ぜりが上がり、高橋君登場。ところが、私が踊っている間中、客席のお客さんが「キャーワー」と歓声をあげる。気になった高橋君、ビデオを撮ってもわからない。「マサコ、お客さんがキャーワーって言ってんだけど、何かやってんの」「うん。長谷川先生(長谷川一夫さん)に教わった、流し目をしてんの」
腰が抜ける程驚いた、高橋君の顔。ぜひ、皆さんに見せたかったなあ。
まあ、こんな調子で、ダックス・フントと白色レグホンの戦いは、永遠につづくのであります。何才になっても、きっと、きっと。じゃあ、またね。
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- 和泉 雅子
- 女優 冒険家
- 1947年7月東京銀座に生まれる。10歳で劇団若草に入団。1961年、14歳で日活に入社。多くの映画に出演。1963年、浦山監督『非行少女』で15歳の不良少女を力演し、演技力を認められた。この映画は同年第3回モスクワ映画祭金賞を受賞し、審査委員のジャン・ギャバンに絶賛された。以後青春スターとして活躍した。
1970年代から活動の場をテレビと舞台に移し、多くのドラマに出演している。
1983年テレビドキュメンタリーの取材で南極に行き、1984年からは毎年2回以上北極の旅を続けている。1985年、5名の隊員と共に北極点を目指したが、北緯88度40分で断念。1989年再度北極点を目指し成功した。
余技として、絵画、写真、彫刻、刺繍、鼓(つづみ)、日本舞踊など多彩な趣味を持つ。 - 主な著書:『私だけの北極点』1985年講談社、『笑ってよ北極点』1989年文藝春秋、『ハロー・オーロラ!』1994年文藝春秋。
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