コラム
かがやく人
「背伸びをせずに自然体でガキ大将のような気持ちで毎日を楽しむ―私にとって一番の健康法です」落語家 三遊亭 好楽さんに聞く「私の健康法」
―今回は日本テレビ系『笑点』大喜利メンバーでおなじみの三遊亭好楽師匠にご登場いただきました。芸歴55周年を迎えてますます芸に磨きがかかり、2020年からは五代目円楽一門会の顧問も務める好楽師匠に、健康の秘訣と芸に対する向き合い方などについてお話を伺いました。
怖かったお袋を笑わせる
ラジオ落語に魅かれ入門
うちは8人兄弟で、私は6番目なんです。熊本から池袋へ出てきて、そして一番下の弟が生まれてすぐに警部だった親父が死んじゃって、それでお袋が8人の子供を育てたんです。
お袋が朝から晩まで、一人で家の仕事を全部してくれてました。夜、明日の御飯の支度して、銭湯から帰ってきて、ようやくホッとできる時間が9時過ぎです。そして布団に入って、ラジオで落語名人会を聞くんです。それがお袋の唯一の楽しみでしたね。
いつも怖いお袋が、ラジオを聞いて笑ってんですよ。私なんて年中怒られてまして、包丁は飛んでくるわ、裁ちばさみは飛んでくるわ、物差し持って「コノヤロー!」って追っかけられるわで。そんなお袋を笑わせるって、どんなものだろうと子供心に興味が出たんです。
「お袋、これ面白いね」と言ったら「落語っていうんだよ」と教えてくれました。兄弟のうち7人全員が無口で、私とお袋だけがお喋り。二人で落語を聞いたり、野球や相撲の中継を聞いたり、趣味が一緒だったんです。
そんなことで落語に興味を持って、昭和41年の4月に8代目林家正蔵師匠に入門しました。それで、その1か月後には『笑点』が誕生したんですよ。物凄く縁を感じますね。私も笑点も今年で55周年、共に歩んできたっていう思いです。
人を楽しませるにはまず
楽屋の雰囲気作りが大事
よく可愛がっていただいた古今亭志ん朝師匠に、こんなエピソードがあるんです。
志ん朝師匠の落語はあんなに面白くてうまいのに、やっぱり高座へ上がる前には緊張されるんですね。自分の出囃子が流れているときに手に何か文字を書いて飲み込んでるんです。「何飲んでるんですか?」と聞いたら、緊張をほぐすために「人」という字を書いて飲んでるって言うんですよ。意外ですよね。さっそく私も真似して、手に文字を書いて飲み込んでみましたよ。何て書いたって?もちろん「酒」って字ですよ。「それじゃダメじゃん!」って、昇太師匠に怒られちゃいました。
楽屋でこういう冗談を言って、和やかにするのが私の役割なんです。
例えば笑点の収録前に、これから人を楽しませるお仕事をするってのに、楽屋でブツブツ喧嘩したり、そういうのは絶対だめだよって。「よくそういうくだらないこと考え付きますね」って、たい平師匠や昇太師匠に言われて「ゴメンチャイ!」って。そうやって和やかな雰囲気にしてから収録に臨むんです。
弟子たちに諭すことは
「基本的なマナー」です
おかげさまで、大勢の弟子が私のもとに集まってきてくれていますが、それは当然、一人一人の人生を私が預かるって事なんです。責任重大ですよ。弟子たちにいろんな事を伝えていきたいと思いますが、私は弟子たちみんなの前で「こうだよ」って一度に話をすることはしないんです。人って、性格はもちろん、それぞれ好きな事や得意とする事なんか全部違いますからね。
私は年に150回くらい地方巡業などで旅にでるんですが、その際に弟子を一人ずつ連れて行くんです。すると、飛行機や新幹線、楽屋とかで長時間二人きりになるでしょ。その時に「昔、師匠にこう教わって、こうしたんだ」とか、順番に一人ずつ、全員に、それぞれの性格にあった事を諭すんです。そうするとその子は、「先日好楽師匠にこんなことを教わった」と違う子に話すから、結果的に弟子たちみんなに伝わることになるんです。
私が弟子たちに諭すことっていうのは、基本的なマナーですよ。変な嘘ついちゃダメ。しゃべるときには人の目を見て。きちんと正座をして、しっかりと挨拶もすること。マナーで始まり、マナーで終わる。マナーがしっかりしていれば「やっぱり好楽のところはちゃんとしてるな」って、ほかの師匠も見てくれますから。
私が「池之端しのぶ亭」を建てたのは、いつでもここにお客さんを呼んで稽古をしてほしい、勉強してほしいっていう気持ちからなんです。ゆったりと聞けるスペースをとると35人で満席。この小さな空間が良いんです。壁に向かって稽古をするやり方もありますが、あれは良くないと思います。50回、100回、壁に向かって稽古をするよりも、高座に上がって、たとえたった1人でも、お客さんの前で話した方が良い。
今はネットやSNSで、すぐにお客さんを呼べるようになったんだから、どんどん使ってほしいと思います。
「池之端しのぶ亭」にて
今日は一日何をしようか
毎日ウキウキ考えてます
いつだったか、うちの弟子がインタビューで「好楽師匠はどういう人なんですか?」って聞かれた時に「永遠のガキ大将です。人を集めては何か面白いことばっかりしてる」って答えたんです。言われてみるとその通りかな。
朝起きた時にまず「今日は一日何をして楽しもうかな」って、ウキウキしながら考えるんです。本当に考える事が子供と同じなんですよ。でもこれが自然体で、変に背伸びなんてしない。ガキ大将のような気持ちでいろんなことを楽しむ。これって、私にとって一番の健康法なんじゃないかな。(談)
■三遊亭 好楽さん(さんゆうていこうらく)
1946年8月6日生まれ。東京都出身。
19歳の時に8代目林家正蔵に弟子入りし、1979年から日本テレビ『笑点』大喜利メンバーに加わる。2013年には若手の育成を目的に自宅を改築した寄席「池之端しのぶ亭」をオープンさせる。
2015年~2020年まで円楽一門会の会長、2020年からは同顧問を務める。
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