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2018年02月20日

「捨てられないのは、女房への愛だけです(笑)」/藤竜也さん『東の狼』インタビュー(2)【映画】

2月3日に公開される映画『東の狼』。100年以上も前に狼が絶滅した奈良県東吉野村を舞台に、幻の狼を追い続ける孤高のハンターを演じた藤竜也さんにインタビューしました。なんとも言えない温かさで質問を受け止めながら、丁寧に言葉を選んでお話される藤さん。「本当に」とか「とても」といった言葉を口にしない代わりに、藤さんから絞り出されるシンプルな一言は、思いがこもっていて、こちらの心に届きます。撮影秘話からプライベートのお話まで、広く語っていただきました。

前の記事「「奈良を舞台にキューバの映画を撮りたいと言われて、最初は え!?と思いました(笑)」/藤竜也さん『東の狼』インタビュー(1)【映画】」はこちら。

アキラにとって狼とは、一体何なのか

――ハードな撮影だったようですが、どんなところが大変でしたか?

 自分の役をやりながら、半ば(監督の)カルロスに引き回されて生きたわけでね。(監督と自分の)二人分の魂が入っているから、いつも居心地の悪さがあるんだけど、段々とカルロスの魂が大きくなってくるんです。すると、変わった変な感じになってきて。

――のっとられているような?

 そうですね。あまり監督に聞くのも失礼だから、特に話さなかったけど、カルロスに「(アキラにとって)狼って何なんですか?」って聞いてみたことがあるんです。そうしたら、向こうも困っているんだよね。たぶん、誰でも自分の内なる狼がいると。そういう思いが彼の中にあったと思う。アキラをやっていると、彼の狼に対する思いが非常に複雑なんですね。畏怖しているし……愛憎かな。愛憎入り交じった揺れる魂。何なんだろうなという感じ(笑)。カルロスがキューバの革命が好きだったのでね、僕もそれについては、ひととおり読んだ時期があったので、なんとなくわかるところはあるんです。でも、それを言っちゃ身も蓋もないからね。その話はしなかったけど。

――そういう情熱を秘めている映画なんですよね。

 (噛みしめるように)そうだと思う。

――理屈ではないんだけど、伝わってくるものがあります。

 黒木和雄さんの『キューバの恋人』(1969/注1)をカルロスが観て、今回の映画を撮れるんじゃないかという話になったんだけど、あれから50~60年経っているから、キューバの人たちが置かれた状況も変わっていますからね。撮影に入る前にキューバの映画を何本か見たんです。革命の比較的後に作られた映画を2~3本。どれもいい映画だったけど、それを観た後、カルロスの言いたいことがなんとなく分かる気がしましたね。

注1:『キューバの恋人』…キューバ革命10周年を機に、キューバの国立映画芸術協会との合作で、黒木和雄監督がキューバで撮影した映画。『東の狼』の中にも、ある場面が挿入されている。

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この映画は、なら国際映画祭が今後の活躍が期待される若手監督を招き、奈良を舞台に映画を制作するプロジェクト「NARAtive(ナラティブ)」で2016年に制作された。

興味があるのは未来。過去には興味はないです。

――この作品のエグゼクティブ・プロデューサーは奈良を舞台にたくさんの映画を撮られて、なら国際映画祭のエグゼクティブ・ディレクターも務める映画監督の河瀬直美さんです。短編も含め、藤さんは河瀬さんと何本かお仕事されていますね。

 河瀬さんは世界の作り方がちょっと独特ですね。それが面白い。やはり魂をさらっていこうとする。それで、さらわれるんです(笑)。出演すると、その後、そこから抜け出すのが大変だったりします。今回もそうでしたけどね。

――のっとられたり、さらわれたり……(笑)。

 まあね、(役者の仕事は)そういうものだからね。肉体を貸すわけでね。

――このところ、過去にとらわれている男性の役柄が多いですね。

 歳をとると、過去が主だからね(笑)。でも、僕自身は興味があるのは次の仕事。それしかないです。前向きですよ。ただ、やる役はね、老人は過去しかないですよ、一般的には。

――過去は切り捨てられるタイプですか?

 全部切り捨てます。切り捨てられないのは、女房への愛だけです(笑)。愛っていうのも、おかしいけれど。

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撮影監督は名カメラマン、山崎裕さん。藤さんの表情を大切に撮っているのが伝わってくる。

1日の終わりにご夫婦で続けていること

――毎晩、奥様と握手してから眠りにつかれるそうですね。素敵です。

 翌朝、会えないかもしれませんからね。あまり素敵じゃないですよ。現実です。熱があるかな、とかさ(笑)。習慣にしているから、妻がうたた寝していて、じゃあ僕は自分の部屋に入って寝ようかなと思っていると「(握手を)忘れてるわよ」って。

――いいですねぇ。夫婦関係に大切なのは、どんなことだと思いますか?

 昔、黒沢明さんの『どですかでん』(1970)で伴(ばん)淳三郎(じゅんざぶろう)さんが素晴らしい演技をなさったじゃないですか。「おまえの女房はひどいよ」って言われたら、その人間を殴って殴って殴り続けた。僕はあれを見て感動しました。そういうものだと思いますね、夫婦っていうのは。僕の家内がああいう人だということではなくてね(笑)。なんていうかね、人間の格として(妻のことを)かなり尊敬しちゃっているのね。

――素敵ですね。

(意外な様子で)ああ、そうかね?いや、つまり…(照れる)かっこいいことじゃなくてね(笑)。大きいんです、彼女の方が。どうも、そういう感じがするんですね。


藤 竜也(ふじ・たつや)さん

1941年、北京生まれ。日活入社後、『望郷の海』(1962)で映画デビューし、数多くの作品に出演。76年の映画『愛のコリーダ』で報知映画賞主演男優賞、『村の写真集』(03)で上海国際映画祭主演男優賞を受賞。近年の出演作に『龍三と七人の子分たち』(15)『お父さんと伊藤さん』(16)など。倉本聰脚本のドラマ『やすらぎの郷』(17)では寡黙な任侠映画の元スター”秀さん”を演じて話題に。今秋には日中仏合作映画『CHEN LIANG』が公開される。


『東の狼』

100年以上もの間、ニホンオオカミが目撃されていない東吉野の森。長年、猟師として生きてきた仁村彰(藤竜也)は、絶滅した狼の存在を今も信じている。狼にのめり込む彼の姿勢に、周囲の猟師たちは段々着いていけなくなるのだがーー。昔気質の猟師である彰と、彼の周りで変わっていく時代。その哀感の中に、狼と対峙し続けたひとりの男の人生を浮かび上がらせた骨太な作品。舞台となる奈良県東吉野村の美しい自然と暮らしも魅力。

2月3日(土)より新宿ピカデリーほか全国順次公開
監督:カルロス・M・キンテラ
出演:藤竜也、大西信満、小堀正博ほか
配給:HIGH BROW CINEMA
@Nara International Film Festival& Seven Sisters Films
2017年 日本・イギリス・スイス・ブラジル・キューバ 79分


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