コラム
「江戸のグルメ」B級グルメが大人気~連載57
日本が秋の気配を感じた頃、花が咲き乱れる美しい春の盛のオーストラリアで約一か月仕事をしてまいりました。
やはり滞在期間が長くなると醤油味、日本食が恋しくなって来るものです。寿司、天ぷら、蕎麦、鰻。つくづく自分が日本人だと感じます。小さなパイが千円もする国からすると、今の日本はワンコインで食事が出来る大変有難い所です。国中にB級グルメが溢れています。
さて、B級グルメといえば江戸。江戸のB級グルメこそ和食の人気アイテムでした。
江戸中期は上方の品を「下り物」として敬っていた江戸っ子達が次第に自らの価値観を作り出した時期です。食べ物もどんどん江戸独自の物が生み出され、「脱上方」の江戸っ子独自文化の誕生です。
和食といえば世界的にその代表は「寿司」「天麩羅」「蕎麦」。どれもが江戸の庶民が一般化させたものです。長い間江戸の食文化は京風が高級料理とされるのが基本で、江戸独自の味覚は確立されていませんでしたが、江戸は急激に都市として発達したため、各地方からの労働者が増え、それに加えて参勤交代の単身赴任の武士も多かったため、外食産業の需要は一気に高まりました。やはり単身赴任の男性は自炊をあまりしなかった事と、働き盛のエネルギーの源となる食べ物を好む世代の男性には屋台をはじめとした外食産業は必要不可欠だったのでしょう。
江戸前といえば寿司を連想しますが、当時の主流はスタミナ食の鰻。働き手の人気食です。鰻の蒲焼きを白いご飯に乗せた鰻丼は文化期に作られました。
また、カロリーの高い天麩羅も労働力を求められた江戸では人気でした。その背景には、菜種油と胡麻油の生産向上と醤油と味醂の生産も増え、江戸への流通が良くなったためです。
蕎麦は二八で十六文。延享期から万延期まで約百年以上も値段は変わっていません。
寿司は江戸前で取れた小肌、キスを酢でしめ、鮪は漬けにし、穴子は甘辛煮など醤油と味醂の質が良くなったため、とても美味しくいただけました。
寿司や蕎麦には江戸っ子の味覚に受け入れられた関東の醤油は欠かせません。江戸のグルメの発達は関東の調味料の確立に後押しされて発展して行ったのです。
働く庶民の見方の屋台は「早い」「安い」「上手い」の三拍子。気の短い江戸っ子はチャチャッと食べてサッと立ち去るのが粋だったのでしょう。屋台を利用していたのは町人の男性ばかりではありません。テイクアウトも出来たので子供を連れた女性が器を持って買いに来たという記録も残っています。当時の女性達も忙しく働いていたので「出来あいのおかず」は有難い存在だったと思います。
また、武士は庶民の屋台に行くことは恥とされていたので、手拭で顔を隠して利用してその味を楽しんでいたのです。
寒くなると醤油味の温かい物をいただくとホッとします。ふーふーする湯気の向こうに幸せがある。日本人に生まれて良かったと思う瞬間です。(本稿は老友新聞本紙2015年12月号に掲載した当時のものです)
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