コラム
「初物食えば75日長生き!」借金してでも初物を食う江戸人の熱中度がすごい! 連載14
「初物75日」「初物喰えば、75日生延ばるる」
江戸時代にさかんに使われたことわざで、初物を食べると、75日長生き出来るという意味です。
日本の四季は明確で、季節があっという間に移り変わります。花見を楽しんだら、もう初がつお。照りつける太陽の下、スイカを食べていたと思うと、まもなくやって来る初栗。
日本の場合、三ヶ月が一つの季節なので「75日」というと、2ヶ月と15日。つまりその季節の到来よりも15日前あたりが、走り物、初物の季節になります。
季節を運ぶ風は、同時にその季節の先がけとなる食材も運んできます。これが「初物」です。江戸も後期になるとロンドンやパリをしのぐ百万人以上の大都市となり、こうした中で、人よりも一歩先に食べるということは人々の誇りでありました。
また、超過密都市で暮らしている中での気分転換が「初物への熱中」でした。ストレス解消にも初物食いは大変役に立っており、みずみずしい果物や野菜を食べれば爽快感が味わえるし、ビタミンCの効果も大きく、風邪などの感染症予防にも役立ち、江戸の人は江戸暮らしをしながら、長生きするための「初物健康法」をしていたのです。
魚、野菜、果実、どれでも「初」がつくものは人より先に食べる、というのが江戸っ子の誇りと見栄で、江戸城の将軍様から大店の主人、そして裏長屋の住人までもが参加し、意地で争い、熱中していたそうです。
初物の中でも、何といっても熱狂したのが「初がつお」でしょう。綿入れから袷に衣替えし、ほととぎすの声が聞かれる頃になると江戸の町には初がつおが出回ります。借金してでも初がつおをみのがさないのが江戸っ子の自慢で、女房の晴れ着や蚊帳まで質に入れ、負けず嫌いの江戸っ子気質で値段構わず入手しようとしたので、初がつおの値段はべらぼうに高く、今の値段に換算すると初がつお1本22万円から30万円程だったといわれています。見栄を張るのも美学の一つだったのでしょう。
~初がつお 銭とからしで二度なみだ~
~井戸端で みせびらかして 刺身にし~
など、初がつおと苦戦した川柳も沢山残っています。かつおだけでなく、なすやきゅうりも同じで、あまりの初物熱狂ぶりに売り出し時期に制限が設けられた時もありました。しかしながら、やはり初物には目がなく、「やっぱり初物は一味違う」と味にうるさいことを披露していたようです。
昔から初物をいただく時は、東の方向に向かって笑うといわれています。
東は太陽の昇る方角であり、あらゆる食材はすべて太陽の光とエネルギーで生まれてきます。「今年も初物がいただけました」と感謝を込めて、ニッコリ微笑んで有難く頂戴したいと思っています。75日長生き出来ますように!(老友新聞社)
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