コラム
躾と愛情 〈意外と甘やかされていた子ども〉
(本稿は老友新聞本紙2019年4月号に掲載された当時のものです)
ここ最近、子どもへの体罰や虐待、親の育児放棄や自分の子どもを手にかけるなど、なんとも痛ましく悲しい事件が多いように感じます。
世の中が便利になり、物が溢れる豊かな日本は、毎日がスピディー。個室にこもってゲームをしたり、食事も孤食であったりと家族団らんの時間も減り、便利さと引き換えに失ってしまったものはどのくらいあるのでしょうか?
江戸時代の浮世絵は風景画、役者絵、美人画だけではありません。子どもが元気に遊ぶ様子、悪戯をしている子ども、寺子屋で手習いをする子ども、母親の乳房にすがりつく子どもなど、様々な生活が描かれ、そこから、子どもが溢れる愛情で大切に育てられている様子がうかがえます。
子どもは家の宝、地域の宝だったのです。これは乳幼児の死亡率に関係しています。江戸時代の生後1年以内の死亡率は20~25%といわれています。
江戸時代の子育ての特徴の一つに濃密なスキンシップがあります。浮世絵でも多く見られるように、乳房をくわえさせることは愛情を与えことと同じという考えだったので、乳離れは遅く満3歳位までは授乳しています。
食事に関しては子どもの気ままに任せ、寝床に入ってからも、子どもがせがめば何か食べさせたりした記録も残っています。今の時代では考えられない甘やかしと映るでしょう。
しかし、このような子ども天国も7歳まで。その後は武士の子どもであれば藩校へ通い武術を身に付け始め、町人の子どもは寺子屋に通ったり、奉公に出るなど大人への準備期間へ入ります。親への孝養が出来る人になるのが、子どもの大切な務めと考えられていました。ここも、今とは大きく違う考え方です。
江戸時代は中江藤樹、山鹿素行などの儒学者による教育論も盛んでしたから、儒学の重要な徳目である「孝」が影響しているのでしょう。藤樹は「三歳になるまでの父母の苦労は数知れない」と書き残し、母親に孝養を尽くすために官途を拒絶し、親への感謝の想いを徹底させています。『養生訓』で有名な貝原益軒は、親の立場から子育てを体系的に考え、衣食を充分に与えれば虚弱に育つ。多少の空腹感と寒さを感じる程度が丁度良いという、古くから伝わる丈夫な子どもを育てるコツと、子どもを甘やかすことの愚も説いています。
すべてを満たすのではなく、時には我慢も必要ということです。この我慢が親も子も難しい世の中になりました。
もうすぐ新入学の季節。カラフルで新しいランドセルを背負う子どもは元気いっぱいで、私達大人にほっこりとする気持ちを与えてくれます。一人一人の大人がすれ違う子どもにもう少し意識を向けて、地域、国全体で子育てに関わり、これからの日本を担う子ども達が安全に暮せるような、子どもを守る社会になることを願って止みません。
(本稿は老友新聞本紙2019年4月号に掲載された当時のものです)
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