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コラム

2023年10月31日

勉学の秋〈五十の手習い〉

暑かった夏が終わり、だんだんと陽が短くなって月が綺麗な季節となりました。夜が長くなると何か新しい事を学んでみたいという意欲が湧いて来ます。「学び好き」日本人の血が私にも流れているようです。学ぶ事に年齢は関係ないと常々思っているのですが、江戸時代もある程度年を重ねてから、独学で努力して大成した人が大勢います。その代表的な3人をご紹介しましょう。

江戸の天文学者高橋至時の元に天文学と測量述を学ぶため、江戸に出て来たのが佐原の名主伊能忠敬です。当時彼は50歳。人生50年の時代ですから大変遅咲きの学舎です。50を過ぎてから日本全国津々浦々自分の足で歩いて測量し、制度の高い日本地図『大日本沿海輿地全図』を完成させました。これによって日本国土の正確な姿が明らかにされたのです。

また、忠敬の師匠である高橋至時も、同心をしながら天文学を極めた独学者のひとりです。

次に、生まれながら病弱だったため、読書好きで博識家。手で触り、耳で聴いて足で歩くなど、身を持って実践した健康法の集大成『養生訓』が大ベストセラーになった貝原益軒も大器晩成です。

71歳まで城に勤め隠居後に著述を始めました。そのテーマは儒学、本草学、医学、地理、歴史、文学、農学と幅広く、幕末に来日したシーボルトは「日本のアリストテレス」と評しています。

益軒は、大人になってからも様々な病気と付き合うのですが、その経験を書いた『養生訓』には、薬には頼らず、食事は腹八分など、今の時代にも通用する心得が数多く残されています。他にも『大和俗訓』『和俗童子訓』など庶民向け、また、女性、子ども対象に幅広い世代向けの教育書も著しています。

「菜の花や 月は東に 日は西に」あまりにも有名なこの句は、江戸時代に活躍した俳人与謝蕪村が59歳の時に残したものです。尊敬する松尾芭蕉の足跡を辿り、絵を宿代の替わりに置いて旅をしたのが40歳を超えた頃ですが、実は50歳以降の人生しか詳しくは解っていません。

このように、先人には、年を重ねてから努力の末に功績を残した人がいます。現代でも仕事をリタイヤしてから大学に入るなどして学び直す人もいます。昨年の夏、朝から夕方までビッシリ3日間の大学の講義で、ご一緒したご婦人は86歳でいらっしゃいました。忠敬、益軒、蕪村の晩年の活躍もしかり、その行動力はとても励みになります。ただ、好きで学ぶ、好きで学ぶことが自分の悦びとなれば、それだけで充分ではないのでしょうか。日本人の「学び好き」を受け継いでいるのですから、何か新しい「学び」が実る秋にしたいものです。

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酒井 悦子
  • 伝統芸能コーディネーター / 筝曲演奏家

幼少より生田流箏曲を学び、現在は国際的に活躍する箏演奏家。

箏の修行と同時に、美術骨董に興味を持ち、古物商の看板も得る

香道、煎茶道、弓道、礼法などの稽古に精進する一方で、江戸文化の研究に励み、楽しく解りやすくをモットーに江戸の人々の活き活きとした様子と、古き良き日本人の心を伝えている。

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