コラム
「玩具のもつ意味」こどもの成長を願う~連載74
「こどもの日」を調べると、祝日法2条によれば、「こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに、母に感謝する」ことが趣旨である。1948年に制定。ゴールデイウィークを構成する日の一つである。となっています。改めて、そうだったのか……と思うと同時に母感謝。それはヨシとして、では父はどうなるの? と考えてしまいます。
現代のこどもの日といえば、勿論、端午節供ということで柏餅や粽をいただいたり、菖蒲湯に入ったりと昔ながらの年中行事は行われ親子で楽しく過ごす時間ではありますが、こどもの日だから、こどもにおもちゃを買い与えるというご家庭も多い昨今です。母に感謝する。は全く影をひそめていますが、考えればすぐ目の前に「母の日」が控えているのですから、みなさんこちらで感謝の気持ちを表わすのでしょう。
こどもに贈るおもちゃ、つまり玩具には大切な意味が込められていたのです。江戸時代の「遊び」には教育上の意味はありません。だから「良い遊び、良い玩具」という考えも存在していませんでした。当時の玩具は「手遊び」と呼ばれ、手に持って遊ぶという意味でも玩具はこどもを楽しませるためのもので、その多くは年中行事や信仰に関係あるもの、俗信、縁起、説話、伝説に結びついたものというのが特徴です。
では、具体的な例をご紹介しましょう。最近は目にすることも少なくなりましたが、「犬張子」にざるをかぶせた玩具を天井からつるすと、幼児の鼻がつまらない。江戸の郷土玩具である今戸焼の「鳩笛」は食事がのどをつかえないためのまじない。こどもが饅頭を二つに割って両手に持っている「饅頭食い」という人形は、両親のどちらが好き?と聞かれた時に、饅頭を二つに割って、どちらが美味しい? と問い返した説話を題材としています。これらはこどもが利口になるまじないや安産祈願に奉納されていたようです。
玩具には魔除け、病除け、厄災の身代わりという要素も含まれ、縁日祭礼などで売られる商品化されたものも多く、寺社の霊験にあやかったものとして、行楽や旅先でのこどもへの土産物になっています。
当時、多くのこどもの生死を分けた病気は疱瘡(天然痘)でした。「疱瘡は見定め、麻疹は命定め」という言葉があるほど、疱瘡にかかると幼児の生死は、運を天にまかせ祈るしかありません。赤色は病魔を退散させるといわれていたので、屏風や衣桁に赤い衣類をかけたり、病気のこどもの周りに置く人形にも赤い衣装を着せたのです。達磨、金時、鯛車などの赤物と呼ばれる郷土玩具はその名残でしょう。雛段や端午節供の人形の下に敷く赤い毛氈、赤鍾馗にも、魔除け、病除けの願いが込められています。赤色の玩具は病気見舞いにも利用されていました。
このように玩具とはこどもの健やかな成長と幸せへの願いだったのです。今のおもちゃを買い与えることの本質を考えてしまいます。
(本稿は老友新聞本紙2017年5月号に掲載した当時のものです)
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