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コラム

2016年08月15日

「慰問文の恋人」~孫に語り継ぐ戦争体験

福島県 I・A 

昭和17年、それは大東亜戦争真っ只中の事。出征兵士に慰問文を送ることになり、私も大勢の人へ送りました。すると、忘れかけていた翌年の四月頃、お礼状が届きました。

N・Sさんというお方で、寝る時間も休む時間も無かったのでしょうが、そのお心には感謝申し上げました。一か月あまり悩んだ挙句に、親にも語れぬまま、文通を始めました。

そのお方は誠実、堅実だと感じましたが、その頃の田舎では男女の交際など許してくれる筈もありませんでした。

でも銃弾を避け、ちょっとの休憩の時間をも惜しみ、戦地から来るお便りにはお返事を出さないではいられなくなりました。

N・Sさんと私の文通は二年半くらい続きましたが、あったことは一度もありません。N・Sさんからの軍事郵便は日を追うごとにたまり、大切に保存しておきました。

N・Sさんは「あなたは農村の乙女、僕は機械油にまみれて働く職工です」と言われ、ついに○○県の者ですと言わぬままお便りが途絶えてしまったのです。

戦争の真っ最中にお便りが来なくなりもしかしたら名誉の戦死をなされたのではないかと、今もって毎日毎日、N・Sさんの消息が知りたいと念じているところです。

あの慰問文の文章が、私の初恋のような気がして、今でもN・Sさんを探しているのです。

私も89歳の高齢になってしまいましたが、たぶん私より3歳くらい年上かと思います。どんな姿でもよいので会いたいです。

もし名誉の戦死をなされていたなら、線香をお供えしたい。そしてご家族の方にお礼を言いたいと思います。

「僕は○○県です」と一筆下さったならと残念でなりません。N・Sさんも高齢になられたでしょうが、二人そろって、静かにあの戦争の事を語れたらと念じて止みません。

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