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老友新聞
ルーペ

コラム

2021年12月29日

コルセット生活

(本稿は老友新聞2020年10月号に掲載された当時のものです)
毎日毎日、コロナウイルスで大合唱。百年に一度と言われる災厄は静まりそうにない。なるべく外出しないと思いつつ、テレビのプログラムなど見つつ、秋の仕事のプランなどを練っている。

と思って、図面を書いていたら、府立大学から電話があり、11月の日程がコロナのせいで決定できず来年に延期という……。無収入の貧乏生活になる。家の中で誰ともしゃべらず、じっとしていたらどういうことになるか。

私が良い例だ。

ある朝起きたら、腰か大腿骨が電気の起こったような痛さ。
え?
でも頑張って仕事に行く。しびれるような痛さ。遂に頑張って旧知の医師のところへ行く。

「年を重ねたら骨も弱る。動かないで寝てなさい。骨は再生する。コルセットで固定していれば骨は再生する。」
それからなんとコルセットの仮縫い。
「え? そんなに堅いものを巻くの?」
「え? そんなの付けてトイレに行くの?」
「お風呂は?」
「お風呂はコルセットを外してよろしい」
「このまま寝るの?」
「えー! 初体験!!」
逆に私は
「みなこんなん付けはるのですか?」
「つけたまま、ほんまにトイレに行けるのですか?」
と、何とか逃れようと必死に抵抗したけど
「骨が折れてるんですよ」
「固定していたら治ります。頑張りましょう」
先生の「頑張りましょう」と言う言葉に、何となく吸い込まれるように承諾した。今日からあのコルセットの支配の下に戦うのだ。

毎日、コルセットの前後が分からなくなるけど、やっと覚えた。不思議なことにコルセットが身体に馴染んでいるのだ。というより、コルセットで固定している方が楽。あんなに嫌がっていたコルセットなのに、付けている方が楽だなんて。

    ◇

昔、ケニアのアンボセリで、マサイのおじいさんがひざ下に長さ20センチくらいの棒を付けていたけれど、みんなそうして生きてきたのだ。と思いながら、私は今、コルセットをしながら原稿を書いている。

    ◇

どこの病院も満員だ。予約をしていても、知り合いの医者がいても、順番は順番だ。ちょっと順番早くしてもらって……という甘い考えは通じない。3時間待ったという人もいた。待っている間に病気になってしまう。看護師さんもいろんな人がいる。態度の悪い人も居れば、やさしい人もいる。

することが無いので人間観察。

姪が将来の就職の話をしてきた。
「『ありがとう』と言ってもらえる仕事が良いね」
私の個室の担当になった人。いつも血圧、体温などを計測しに来るが、いつもやさしい「ひとこと」がつく。
「外は暑いですよ」
「お茶碗熱いですよ」
「注射の時、ちょっと痛いですよ」
サービスは旅館並みだ。

    ◇

20年前、香港やバリ島で病院へ行ったが、外国はサービス業だ。私はやがて病院もサービス業になると思ったけど、本当にそうなりつつある。とは言っても、働く人の人柄は現れる。
「ありがとう」
しばらくの間、ヨーロッパ貴族の女性の気分になってみようか。…無理か!!
(本稿は老友新聞2020年10月号に掲載された当時のものです)

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市田 ひろみ
  • 服飾評論家

重役秘書としてのOLをスタートに女優、美容師などを経て、現在は服飾評論家、エッセイスト、日本和装師会会長を務める。

書家としても活躍。講演会で日本中を駆けめぐるかたわら、世界の民族衣装を求めて膨大なコレクションを持ち、日本各地で展覧会を催す。

テレビCMの〝お茶のおばさん〟としても親しまれACC全日本CMフェスティバル賞を受賞。二〇〇一年厚生労働大臣より着付技術において「卓越技能者表彰」を授章。

二〇〇八年七月、G8洞爺湖サミット配偶者プログラムでは詩書と源氏物語を語り、十二単の着付を披露する。

現在、京都市観光協会副会長を務める。

テレビ朝日「京都迷宮案内」で女将役、NHK「おしゃれ工房」などテレビ出演多数。

著書多数。講演活動で活躍。海外文化交流も一〇六都市におよぶ。

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