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2021年12月08日

「炎天の陽を背に浴び塗装工己の影も青く塗りゆく」2021年12月入選作品|老友歌壇

老友新聞2021年12月号に掲載された短歌入選作品をご紹介いたします。(編集部)

一 席

炎天の陽を背(せな)に浴び塗装工己(おのれ)の影も青く塗りゆく

荻野 徳俊

「己の影も青く塗りゆく」。塗装工の観察が行き届いていても、ここまでの表現はなかなかできません。秀逸です。

二 席

コロナなど届かぬ空に煌々と下界を照らす十五夜の月

鈴木 とく

下界で右往左往する人間を静かに照らす月。コロナ禍に暮らすからこそ、月への澄み切った憧憬が際立ちます。

三 席

あの月の神々しさに外に出てしばし合掌無となって立つ

坪内 榮子

九月二十一日の仲秋の名月は、くっきりと大きな満月で、本当に美しかったですね。今年は中秋の名月と満月の日付が一致するという事で、話題になりました。「無となって立つ」に共感される方が多いと思います。

佳作秀歌

町に唯一の寺田書店が閉店しシャッターにさす晩夏の光

宮本 ふみ子

町に一軒きりだった書店が、とうとう閉店した。寺田書店という固有名詞が具体的な情景を思わせます。下の句に、作者の寂しさが投影されています。

まぎれなく老いたるわれを映す影水澄みきりて深みゆく秋

王田 佗介

ふと見やった自分の影に老いを自覚したという上の句から、深みゆく秋への展開がいいですね。水は澄み切って清澄な秋です。

朝の陽にマッターホルンの七変化目を奪われてシャッター切れず

菊地 幸子

マッターホルンにいらっしゃったのでしょうか。すごいですね。「シャッター切れず」は、作者の実感。実感の素直な描写こそ力です。

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