医療と健康
「毎日の尿、ちゃんとチェックしていますか?」
皆さん、毎日当たり前のようにおトイレに行き排尿(おしっこ)していますね。
今回の記事はこの「おしっこ」について、気を付けていただきたいことを中心にお届けしたいと思います。ご存じと思いますが、おしっこは腎臓(そら豆の形をした臓器で左右1対あります)で作られます。腎臓には大量の血液が出入りし、腎臓を廻る間に血液の中の老廃物がろ過(こしとられる)されます。この時、体にとって大切な水分やたんぱく質などは再吸収されて血液に戻っていきます。ですから、健康な腎臓からつくられるおしっこは本当に体にとって不要となった物質だけが含まれていると言えます。もしもおしっこの中に自分の体にとって大切な糖分やたんぱく質が出てきている場合には、進行した糖尿病や高血圧など重度の病気が隠されていることも少なくありません。健診などでは必ず尿検査をして、尿の中に糖分やたんぱく質が出ていないかをチェックすることになっているのはこのためです。
腎臓で作られたおしっこは尿管という管(くだ)を通って、下腹部にある膀胱に貯められます。腎臓からは常にダラダラとおしっこがつくられていますが、それを膀胱に溜めておくわけです。おしっこが溜まって膀胱が一杯になってくると尿意を催して、トイレに行くということになります。膀胱に溜まった尿は自分の意志で排尿しますが、その時は膀胱から尿道という管を通って一気におしっこが出てくることになります。もしも膀胱や尿道などに細菌が入ったりしますと、感染による炎症(正しくは尿路感染症といいます)が起きるために、頻回に尿意があったり、排尿時に痛みがあったり、おしっこそのものにも血液成分(赤血球や白血球など)が出てきます。赤血球が多い場合にはおしっこの色が茶褐色~赤褐色となりますが、これを血尿と呼んでいます。血尿ほどではなく、ほぼ正常な色のおしっこの場合でも赤血球が出ていることもあります。これを尿潜血といいますが、高齢女性にはこの尿潜血の割合が高くなります。治療が必要となる人は少ないのですが、1度は専門の医師に診察してもらうことが大事です。
高齢者では男女共におしっこの回数が多くなる、すなわち「頻尿」が良く見られます。
もちろん、何の病気がなくても水分をたくさん取ればおしっこの回数は増えるのですが、加齢とともに腎臓の働きが低下してくると、水分の再吸収の能力が低下し、そのためにおしっこの回数が増えてくることになります。さらに高齢者では上で述べたように尿路感染があれば、尿路に対する刺激が出てきてすぐおしっこに行きたくなります。また男性の場合には尿路の後方にへばりつくようにある前立腺が肥大(腫れる)する病気(前立腺肥大といいます)が非常に多く発生しますが、この場合も尿路に刺激が加わるために昼夜を問わずおしっこに行きたくなります。さらにこの前立腺肥大症の場合はおしっこが出づらくなります。おしっこの出るまでに時間がかかり、ちょろちょろとしか出ず、なかなか十分に出切った感じがないという、とても厄介な排尿困難がみられます。いずれにしても、夜間の頻尿で十分な睡眠がとれない、あるいは昼間の頻尿でしょっちゅうおトイレに行かなければならないような場合には、是非一度専門医に診察してもらいましょう。今は内服薬での治療が非常に効果的ですので、よく相談して適切な治療をお勧めします。
おしっこの問題で高齢期にはもう一つ、尿漏れ(尿失禁;図)もよく見られます。
女性では尿道を取り巻く骨盤の底の部分の筋肉群がちゃんと働かなくなるために、少し力んだだけでも尿漏れが生じてしまいます。例えば、くしゃみをしたとき、荷物などを持ち上げたとき、あるいは笑った時など下っ腹に力が入ったときにフッと尿が漏れてしまうのです(「腹圧性尿失禁」)。また男性の場合は加齢とともに前立腺肥大が生じ、尿が出にくくなるとともに排尿の我慢もしずらくなり、尿漏れが発生するのです。女性の腹圧性尿失禁の場合には、家庭で骨盤底筋を鍛えることでかなり尿漏れを改善することが可能です。毎日、テレビを見ているときなどでも、尿道や膣を「ギュッ」と強く短く締める、あるいは「ギュウー」っと少し長めに締めるなどを交互に繰り返して練習しているだけでもよくなることが報告されています。
最後に、「過活動性膀胱」という障害についてご紹介して大きます。過活動性膀胱とは、膀胱に十分な量がたまっていないにもかかわらず、昼も夜も急におしっこがしたくなり(「尿意切迫感」)、頻回に尿意が出る症状で、多くの場合ガマンが出来ずに尿漏れ(切迫性尿失禁)が発生してしまいます。夜間の就寝中に何度も尿意があるためにトイレに起きることも多く(「夜間頻尿」)、まさに膀胱の活動が異常に高まっている病気です(図)。原因はさまざまで膀胱炎などの感染症の場合もあれば、男性の場合には前立腺肥大などもありますが、はっきりした原因がない場合もあり、直すことが難しい症例も少なくありません。
治療としては水分を控えることもありますが、薬物療法や外科的な処置を選択する場合もありますが、いずれにしても専門医の診察が必要となります。
「おしっこ」は毎日のとっても大切な体の働きですので、「粗相」なく過ごしていただきたいと思います。
図 過活動性膀胱;何らかの原因で、尿がたまっていないにもかかわらず、過剰な膀胱の収縮が起きて、突然の尿意や尿失禁が起きてしまいます
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- 鈴木 隆雄 先生
- 桜美林大学 大学院 特任教授
- 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
- 超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
- 老後をめぐる現実と課題(健康問題,社会保障,在宅医療等)について,長年の豊富なデータと科学的根拠をもとに解説,解決策を探る。病気や介護状態・「予防」の本質とは。科学的な根拠が解き明かす、人生100年時代の生き方、老い方、死に方。
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