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医療と健康

2021年07月09日

オリンピックとドーピング

いよいよ東京オリンピック・パラリンピックの開催が間近に迫ってきました。コロナ禍の中での開催ということで賛否両論、いろいろな意見がありますが、いずれにしても開催ということになれば日本選手団の活躍を大いに期待したいところです。

ところで、オリンピックを初めとしたスポーツの大会で必ずと言っていいほど注目されるのがドーピングの問題です。ご存知のようにドーピングとは、薬物等を不正に用いることで競技能力を向上させ、良い成績を収めようとする行為を言います。古くは古代ギリシャの時代から興奮剤等が競技能力を向上させる目的で使われていたという記録が残されていますが、現在では厳しい規制と厳重な検査が行われていて、発覚すれば違反行為としてメダルの剥奪や出場停止などの厳しい制裁が科されることになります。

「ドーピング」の語源は、諸説ありますが、南アフリカのズールー族が、祭礼や戦いの際に飲んだアルコール度数の強い酒を表す“dop”という言葉に由来すると言われています。「パフォーマンスを向上させる」という意味で「ドーピング」という言葉が使われるようになったのは、19世紀のアメリカで競走馬に薬物を投与して能力を高めたことが最初であるとされています。現在の定義では、スポーツなどの競技で運動能力を向上させるために、薬物を使用したり物理的方法を採ること、及びそれらを隠ぺいしたりする行為とされています。どういう行為がドーピング違反に当てはまるかは世界ドーピング防止規程(WADA Code)に定められており、意図的ではなく不注意であったとしても、制裁の対象となってしまいます。

2018年1月、東京オリンピックを目指していたあるカヌーの選手が、ライバル選手の飲み物に禁止薬物を混入させ、ドーピング違反をさせようとしたことが発覚し、話題となりました。薬物を混入された選手はレース後のドーピング検査で陽性反応を示したものの、禁止薬物の摂取を否定していました。その後混入した側の選手が自責の念に駆られてカヌー連盟に告白し、事態が明らかになりました。自身の競技能力を向上させる目的ではなく、他人を陥れる目的で行われるこのような行為は「パラ・ドーピング」と言われています。このようなアスリート本人に全く責任がない場合でも、禁止薬物を摂取して競技をしたことは事実であるため、公平性の観点から記録は取り消されてしまいます。

また、アスリート本人も禁止薬物であると気づかずに禁止物質を摂取してしまい、失格となってしまうことがあります。たとえば、試合前に風邪を引いてしまい、禁止物質を含む風邪薬を服用してしまうことがこれに該当します。このような不注意によるドーピング違反は「うっかりドーピング」と呼ばれ、日本におけるドーピング陽性事例のほとんどが「うっかりドーピング」によるものです。

なぜドーピングに対してこのような厳しいルールが決められているのでしょうか?例えば、選手同士でお互い疑念を抱いたり、スポーツを観戦する人々が選手のパフォーマンスを懐疑的に見たりすることが日常的であったとしたら…このような状況ではスポーツの価値が高まることはないでしょう。純粋に競える、感動できる、楽しめる、そのような環境作りが不可欠だったのでしょうか。すなわち、ドーピングを防止するということは、スポーツマンシップにのっとった公正さを担保するものだと言えるでしょう。

鈴木勝宏博士
  • 鈴木 勝宏 教授
  • 日本薬科大学 薬学部 教授 博士(医学)
  • 病院、薬局勤務を経て現職。専門分野は地域医療。主に薬学科の実務教育を担当。また、スポーツファーマシストの資格を持ち、スポーツ薬学コースの学生に「アンチ・ドーピング」の講義も行っている。
  • 日本薬科大学 公式サイト
    https://www.nichiyaku.ac.jp/

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