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新型コロナの影に隠れる意外な感染症 油断大敵!大人の「溶連菌」はつらい症状に 5-6月は溶連菌咽頭炎の流行時期 疑わしい時は、まず受診を!
薬剤耐性対策に取り組む AMR臨床リファレンスセンターは、毎年5-6月にピークを迎える咽頭炎の原因菌である“溶連菌”について認知調査を実施しました。今回はその結果をもとに、国立国際医療研究センター病院 総合感染症科の岩元 典子医師が具体的な症状や注意点について解説を行いました。
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)に対する感染対策をとるようになったことで、季節ごとに流行する一般的な感染症は減少傾向にありますが、そのような中でそれらの感染症が見逃されていることがあります。その一つが「溶連菌」による感染症です。溶連菌による咽頭炎は梅雨時にかけて注意が必要です。
溶連菌の正式名称は「A群β溶血性連鎖球菌」といい、咽頭炎を起こすことでよく知られています。溶連菌咽頭炎は小児がかかりやすいことから、子どもがいる家庭では名前を聞いたことがあるかもしれません。一方で「大人はかからない感染症」と思っている人も多く、少しひどい咽頭炎とみなされることもあるようです。
溶連菌の咽頭炎は、大人がかかっても喉のひどい痛みや高熱が出ることがあります。いわゆるかぜ(ウイルス性の急性上気道炎)との違いは、鼻水や咳の症状が乏しく、喉の痛みや腫れが強いことです。溶連菌の感染症は、まれに、連鎖球菌性毒素性ショック症候群、リウマチ熱や急性糸球体腎炎など、重症化したり合併症を起こすことがあります。大人がかかる咽頭炎の5-15%は溶連菌といわれていますが、残りは抗菌薬が効かないウイルスなどが原因です。溶連菌咽頭炎と診断されれば、症状の軽減や合併症を防ぐために抗菌薬で治療します。高熱が出たら、COVID-19も懸念されますが、その影に隠れた感染症を見逃さないことも、この時期は大切です。
Source:CDC
■サマリー
溶連菌は「子どもの病気」という認識が強い
1. 【調査結果】半数以上の人が「溶連菌」を知らない
2. 高熱・喉の痛み、大人もつらい症状に
3. リウマチ熱、急性糸球体腎炎などの合併症を起こすことも
4. 新型コロナの影響で、見過ごされる可能性も まずは診断をうけること
5. 溶連菌と診断されたら抗菌薬を飲みきることが大切
6. 感染予防は手洗い・密集した場所を避けるなど基本的な対策を
※調査サンプル:男女346人
調査期間 :2021年5月
■半数以上の人が「溶連菌」を知らない
当センターの調査では、40-59歳で子どもがいる回答者は約7割が溶連菌のことを「知っている」と回答しました。一方で、50歳代で子供がいない人や60歳以上の人では、6割以上が「知らない」と回答しました。
溶連菌は子どもの感染症と思われがちですが、大人にも感染症を起こします。これを知ることは、自分の健康だけでなく、家族の健康を守ることにもつながります。症状、合併症、検査方法、治療法など、基本的な情報は知っておいた方がいいでしょう。
アンケート結果
■高熱・喉の痛み、大人もつらい症状に
溶連菌の咽頭炎は、発症している人と接触したあと、2-5日で発症します。
主な症状は高熱と喉の痛みで、くしゃみや鼻水の症状がないことが、かぜの症状と異なるところです。上あごの奥の方に紅い発疹ができたり、舌にイチゴのようなつぶつぶ(イチゴ舌)ができることがあります。体や手足に発疹がでることもあり、急性期を過ぎると皮がぽろぽろとむけていきます。これは、大人も子どもと同じ症状が出ます。溶連菌にかかった患者さんの中には「大人になって、こんなに苦しかったことはない」と話す人もいるほどです。
■リウマチ熱や急性糸球体腎炎などの合併症を起こすことも
溶連菌の感染症では、まれに重症化したり合併症が起こることがあります。
その1つである「猩紅熱(しょうこうねつ)」では溶連菌が出す毒素によって全身に紅色の小さな発疹が出ます。また「連鎖球菌性毒素性ショック症候群」では、毒素による急激な血圧の低下や複数の臓器の機能不全が起こり、命の危険を伴います。
また、「リウマチ熱」や「急性糸球体腎炎」という合併症を伴うことがありますが、これらは抗菌薬の治療により、現在は少なくなりました。溶連菌を退治しようとする免疫反応により、「リウマチ熱」は心臓に、「急性糸球体腎炎」は腎臓の糸球体に炎症が起こり、機能が低下する病気です。合併症は免疫力が高い5-15歳に起こりやすいといわれていますが、大人にもかかることがあるので注意が必要です。
溶連菌の重症化と合併症
■新型コロナの影響で見過ごされる可能性も まずは診断をうけること
COVID-19の疑いで来院された方の中には、溶連菌の検査で陽性になることがあります。新型コロナウイルス感染症が流行している現在では、発熱で受診された患者さんに新型コロナウイルスのPCR検査が行われることが多いですが、陰性だった場合、発熱の原因を突き止める他の検査は行いにくくなっています。大人の溶連菌は子どもからうつることが多く、家族が溶連菌に感染をしていた場合は、それを医師に伝えることも大切です。検査は、綿棒で喉の奥をこすりとって行う迅速検査が一般的に行われています。
■溶連菌と診断されたら「抗菌薬を飲みきること」が大切
中途半端な服用は、再発や薬剤耐性菌の発生につながります
大人がかかる咽頭炎の原因の5-15%は溶連菌といわれていますが、それ以外は抗菌薬が効かない“ウイルス”などが原因です。薬剤耐性菌を増やさないためには、溶連菌と診断され、治療するなどの必要な場合に限り、抗菌薬を飲むことです。治療はペニシリン系の抗菌薬が多く使われます。
溶連菌の咽頭炎と診断され、抗菌薬を処方されたら最後まで飲みきることが大切です。症状が治まると抗菌薬をやめてしまう人がいますが、再発を防ぐために、抗菌薬は最後まで飲みきることが大切です。中途半端な治療は薬剤耐性菌の発生につながります。溶連菌は一度かかっても、再度感染することがあります。また家族の中で流行することもあるので、診断を行いしっかりと治療を行うことが重要です。
現在、A群β溶連菌を治療する薬に対する薬剤耐性菌は国内では発見されていませんが、もしも発生してしまうと、薬が効かず治療が難航するばかりか、合併症のリスクも高まります。また、「劇症型溶連菌」といわれる急激に悪化する溶連菌に感染にした場合、命を落とす危険が高まります。抗菌薬を正しく使うことが、将来の溶連菌治療を守ることにもつながります。
■感染予防は手洗い・密集した場所を避けるなど基本的な対策を
溶連菌咽頭炎は、通常は溶連菌の咽頭炎にかかっている人との接触でうつります。中には症状がなくても溶連菌をもっている保菌者もいます。「こまめに手洗いを行う」、「密集した場所を避ける」など基本的な感染対策が有効です。また、溶連菌は皮膚に常在することがあり、傷口などから体内に入り、発症するケースもあります。対策としては皮膚を清潔に保つことです。感染症予防は、薬剤耐性の予防にもつながるため、家族全員でしっかりと行っていきましょう。
■お話しを伺った先生
岩元 典子(いわもと のりこ) 先生
国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター医師 総合感染症科 併任
【略歴】滋賀県で小児科医として従事し、その後、感染症を専門とする
2015年 国立成育医療研究センター 感染症科フェロー
2018年より現職
【専門】感染症、感染対策、小児感染症
【資格】小児科専門医・指導医 日本感染症学会専門医
日本小児感染症学会認定暫定指導医
岩元 典子 先生
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