医療と健康
高齢者に多い「誤嚥性肺炎」を防ぐには
高齢者が病気や怪我で入院すると、入院先の病院でそのまま亡くなられるというケースが大変多いが、その際、死の直接的原因になっているのは、多くの場合、肺炎だ。自宅や介護施設などで寝たきり状態の人が亡くなる原因も肺炎であることが非常に多い。なぜ、入院や寝たきりになると肺炎を起こすのか、その原因は口腔内の衛生状態にあるという。今回は肺炎と口腔衛生の関係についてお伝えしよう。
お口の衛生と肺炎の関係
「骨折で入院し肺炎で亡くなる」という例も
高齢者が骨折や脳梗塞などが原因で入院をしたとしても、そのまま病院で亡くなった際の死因は、およそ三分の一が肺炎だという。
肺炎にかかると、激しい咳が出たり、高熱が出たりするものだという認識があるだろう。ところが高齢者の場合、そういった症状が現れにくく、自分自身や介護をする人も気づきにくいことが問題なのだ。
なんとなく鼻がグズグズする。決して激しくはないが、軽い咳が出る。微熱がある。体がだるい、疲れやすい……。
このような、なんとなく風邪を引いている、という症状が一~二週間くらい続く。実はこれが、高齢者の肺炎の症状の特徴なのだ。ちょっと風邪が長引いているだけだと思いこんでいると、病状が進行し、急に高熱が出て、やっと肺炎だと気が付くケースが多いそうだ。
高齢者に多い誤嚥性肺炎
では、高齢者に多い肺炎の原因とは何か。本紙でも過去にお伝えしているとおり、一番大きな原因は誤嚥による肺炎、誤燕性肺炎だ。さらに最近では、自覚無く誤嚥をしてしまう「不顕性誤嚥」というものが問題であることが分かってきた。今回はこの二つについて説明しよう。
まず誤嚥性肺炎について説明する。口は、食べものの入り口であると共に、呼吸をするための空気の入り口でもある。食べものは歯で噛み砕かれた後、飲み込んで、食道を通り、胃へと流れていく。一方空気は、気管を通り肺へと入る。食べ物と空気を、それぞれ食道と気管へと分けて導く役割をする器官が喉頭蓋(こうとうがい)である。喉頭蓋は舌の付け根に位置し、食べ物を飲み込む瞬間に、気管に蓋をして、食べ物が気管へと流れ込まないようにしている。
しかし高齢になると、飲む込む機能が低下してしまい、喉頭蓋が閉鎖不全を起こし、きちんと締まらない事がある。すると、食べ物を飲み込む際に、口の中の細菌が気管へと入り込んでしまうのだ。
また、通常は誤嚥をすると咳をすることで気管から押し出そうとするのだが、高齢になると咳をする能力も低下をしている。さらに若い頃と比べて抵抗力も弱まっているので、肺炎を引き起こしやすい。
本人も気づかない誤嚥
しかし最近では、食事をする際の誤嚥だけではなく、「不顕性誤嚥」とういものも問題であることが分かってきた。
不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)とは聞きなれない言葉だが、これは寝ている間など、自分自身が意識しないうちに誤嚥をしてしまうもの。気付かないからこそ、より怖いものである。
人間は、夜寝ている間にも口から唾液が出ている。その唾液は、無意識のうちに食道を通って、胃へと流れ込んでいく。しかし、胃には強力な殺菌力のある胃酸があるため、口の中の細菌が唾液と一緒に流れ込んだとしても、何も問題は生じない。
ところが、喉頭蓋に閉鎖不全があると、細菌を含んだ唾液が喉頭蓋の隙間から気管へと入り込んでしまうのだ。食事中の誤嚥とは違うため、寝ている間に少しずつ入り込むために、咳込むこともなく、本人や家族も気付きにくいのだそうだ。
肺炎予防のポイントは口腔衛生状態の改善
それでは、誤嚥性肺炎を防ぐにはどうすればよいか。
誤嚥を防ぐために、食べ物を飲み込むトレーニングをするのも良いが、それだけでは不顕性誤嚥は防げない。最も効果的なのは、やはり口の中の細菌を減らすことである。
歯を磨くということは、歯を白く、綺麗に魅せるためだけではない。もちろん、虫歯を防ぐということも重要だが、それだけでもない。口の中の細菌を減らすという事がもっとも重要な目的だということだ。
口の中には数百種類もの細菌が、数百億も潜んでいると言われているが、それらは歯に付着しているばかりではない。口の中は、実に複雑な構造をしており、凹凸が多数存在している。見えにくい、歯ブラシの届きにくい場所にこそ、食べかすがたまり、それを餌として細菌が繁殖するのである。
それらの繁殖を防ぐには、柔らかめのブラシ、あるいは専用の粘膜ブラシを別途用意しておき、歯を磨いた後、歯茎、上あご、舌の上、舌の裏側などもブラッシングを心がけたい。
とくに舌の上は、舌苔という細菌の塊が付着しており、口臭の原因にもなる。夜眠る前にブラッシングをする習慣をつけ、口の中の細菌を退治しておけば、寝ている間に唾液が気管へ入ったとしても、肺炎を防ぐことが出来る。
また、このように口の中をくまなくブラッシングすることは、マッサージの効果もあるということだ。マッサージをすると、細菌を浄化する唾液の出を良くすることにも繋がるという。
さらに、唾液が少ないと、歯で噛み砕いた食べ物がばらばらになってしまい、むせやすくなるのと同時に、口の中のあちこちに食べかすが残ってしまい、細菌の繁殖をさらに助長してしまうのだ。
長年に渡り身についた自身の歯磨きの仕方を見つめなおしてみてはいかがだろうか。「歯磨き」から「口磨き」へ。口内環境を改善して、誤嚥性肺炎をしっかり予防していただきたい。
- 髙谷 典秀 医師
- 同友会グループ 代表 / 医療法人社団同友会 理事長 / 春日クリニック院長 / 順天堂大学循環器内科非常勤講師 / 学校法人 後藤学園 武蔵丘短期大学客員教授 / 日本人間ドック・予防医療学会 理事 / 日本人間ドック健診協会 理事 / 日本循環器協会 理事 / 健康と経営を考える会 代表理事
【専門分野】 循環器内科・予防医学
【資格】 日本循環器学会認定循環器専門医 / 日本医師会認定産業医 / 人間ドック健診専門医 / 日本内科学会認定内科医 / 医学博士
【著書】 『健康経営、健康寿命延伸のための「健診」の上手な活用法』出版:株式会社法研(平成27年7月)【メディア出演】 幻冬舎発行「GOETHE」戦う身体!PART4 真の名医は医者に訊け(2018年6月号) / BSフジ「『柴咲コウ バケットリスト』in スリランカ 人生を豊かにする旅路」(平成28年1月) / NHK教育テレビ「きょうの健康」人間ドック賢明活用術(平成27年5月) / NHKラジオ「ラジオあさいちばん 健康ライフ」健康診断の最新事情(平成25年11月)
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