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2020年08月19日

ご機嫌の科学

「“幸せな気持ちやご機嫌でいること”また“笑い”は体に良い。」という話はよく耳にすると思います。これまでは、なかなか科学的エビデンスがなかったのですが、最近になってたくさんの研究成果が発表されてきましたので、いくつかご紹介いたします。

幸せな人は長生き

「Happy people live longer」というタイトルの記事が2011年に発表されました。この記事では幸せな人の寿命はそうでない人に比べて14%も長く、先進国に住む人の比較では、幸せを感じている人は、7.5〜10年寿命が長いことを伝えています。また、オラウータンを用いた研究では、「ご機嫌なオラウータン」「怒りんぼのオラウータン」そして「その中間」の3群に分けて実験を行った結果、「いつもご機嫌なオラウータン」が長生きであることが報告され、ご機嫌で幸せでいることが長生きにつながることが証明されてきました。

笑いと長寿に関して

ウェイン州立大学のアーネスト・アベル博士らはアメリカのメジャーリーガーを対象に笑いに対する調査・研究を行いました。1952年のメジャーリーガーの選手名鑑に載っている選手達の写真の「笑顔の度合い」と「選手達の寿命」との関係を調査して、メジャーリーガーの顔写真を笑顔の度合いに応じて「微笑みなし」「部分的な微笑み」「満面の笑み」のに3種類に分類しました。その後、2009年6月の時点で故人となっている184人の平均寿命を調べて笑顔の度合いと平均寿命を比較したのです。その結果「微笑みなし」のグループの平均寿命は72.9歳、「部分的な微笑み」のグループは75.0歳、「満面の笑み」のグループは79.9歳という差が認められました。この結果から笑いの度合いが大きいほど長生きする傾向にあると結論づけられました。

笑うと幸せな気持ちになる

イギリスのオックスフォード大学社会文化人類学研究所のロビン・ダンバー所長の研究結果では、「笑いに鎮痛効果がある」ことが発表されています。被検者がドキュメンタリービデオを見たときと、コメディビデオを見たときの脳の変化を比較しました。その結果、ドキュメンタリービデオをみたグループでは痛みに対する反応の強さは変わらなかったのですが、コメディビデオを見たグループでは痛みに対する反応が弱まるという結果が得られました。コメディビデオを見たグループでは笑いが起こると同時に、脳内に「幸せホルモン」として知られている「β-エンドルフィン」の分泌がおこり、痛みに対して脳を麻痺させているのではないかと考えられています。エンドルフィンは痛みを抑えたり、「ランナーズハイ」に見られる、長時間走り続けたときに次第に高揚感を抱くようになる現象に関与していると考えられていて、「脳内麻薬」などとも呼ばれています。

作り笑顔でも脳は反応する

笑顔を作る時には、表情筋という筋肉を使いますが、この表情筋と幸福感も深い関係があることがわかってきました。被検者に面白いことなど何もないのに「笑った表情」をしてもらったところ、前頭前野という記憶や感情などをコントロールする部分に「うれしい気持ち」や「幸福な気持ち」を感じている人と同じような反応がみられることがわかりました。また、他の研究でも「作り笑顔」によって、快感や多幸感を得る脳のドーパミン系の神経活動が活発になり、楽しいと感じる部分を刺激することがわかりました。このことは、楽しい気持ちはなくても、表情を笑顔にするだけで脳を「幸福感を感じた状態」と同じようにできることを意味しています。この様に、心のあり方は自分でコントロールできるのです。

皆さんもコロナ自粛で疲れている時に、試してみてはいかがでしょうか?

井上裕子教授
  • 井上 裕子 教授
  • 日本薬科大学 大学院薬学研究科・薬学部教授、博士(医学)
  • 様々な疾患に関係しているEpstein-Barr virus(EBウイルス)の再活性化機構の解明について、また加齢に伴うホルモン分泌の減少や酸化ストレスなどによる疾患の病態形成機序について研究を行っている。
  • 日本薬科大学 公式サイト
    https://www.nichiyaku.ac.jp/

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