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2016年03月09日

「老齢気うつ」の特徴と治療

読者諸氏は「うつ病」についてどのようなイメージをもたれているだろうか。「暗いイメージ」「精神病の一種のため人には相談しにくい」などと思われる方もいるだろう。うつ病は、風邪や腹痛などと同じ「病気」であり、誰にでも起きうる可能性がある。もちろん、きちんとした診断と治療が必要なため、一人で悩みを抱えずに、まずは医者に掛かることは必要である。今回は高齢者に多いうつ病の特徴とその治療法についてまとめて紹介しよう。

日本国内のうつ病患者の数は、厚生労働省の調べでは百万人を超えていると言われ、また疫学調査では3百万人以上とも言われている。うつ病患者は年々増加しており、さらにうつ病を患う人の4人に1人しか医療機関を受診していないという調査もあるため、実際にはさらに多くの患者がいると考えられている。一生のうち一度はうつ病にかかる人の割合も15人に1人と言われ、それだけ身近な、誰にでもかかりうる疾患である。

うつ病と聞くと、働き盛りのサラリーマンがかかりやすいと思われているかもしれない。たしかに、仕事上でのトラブルや人間関係などから強いストレスを受けたり、疲れが溜まりすぎたりしてうつ病にかかるケースが多い。しかし実際には、我々高齢者もうつ病にかかりやすいとされているのだ。

65歳以上の人がかかるうつ病のことを「老齢期うつ」という。症状は通常のうつ病と同じで、楽しさや喜びといった感情が薄れ、食欲不振、睡眠障害、集中力の欠如、体のだるさなどで、こういった症状が2週間以上続く状態をいう。症状が進行すると、部屋の中に閉じこもったり、死にたいと考えたりすることもある。また老齢期うつ病のみの特徴的な症状としては、頭痛、肩こり、腰痛、関節痛などの体の痛みが合わせて生じることもある。

また逆に、うつ病以外には何の病気にもかかっていないのに、自分は病気だと訴えて悩んだりすることもある。

高齢者がうつ病を患うきっかけというのは、若い世代とは少々異なるという。特徴的なものをいくつか紹介をするので、思い当たる節がないかチェックしてみると良い。該当する人は老齢期うつ病になりやすい傾向にあるので注意が必要だ。

①配偶者や親しい友人との死別

配偶者、近親者、友人との死別というものは大変なストレスになるため、誰もが気が沈み、うつ状態になる。時間の経過とともに悲しみから立ち直り元気になるものだが、長く悲しみを引きずりうつ病になることを「喪失うつ病」という。

②仕事の喪失

定年退職をして、これまで長く続けてきた仕事から離れるとうつ病になりやすい。とくに仕事一筋で生きてきたようなまじめな性格の人ほどうつ病に陥りやすい。仕事以外に何をしてよいか分からない、責任のある役職を失うことでやりがいも失ってしまうためだ。

③体の痛みや病気などの心配事

高齢になれば、誰でも少なからず体に痛い部分ができたり、病気の一つや二つ患うものである。その痛みからのストレスや、病気への不安が蓄積してゆくとうつ病になる。

④将来への不安

金銭的な不安や、体の不安、死への不安などからうつ状態になる。

 

また、体質的・性格的にうつ病にかかりやすい人というのもいる。うつ病は遺伝にも関係するとも言われており、男性よりも女性がかかりやすいというデータもある。これらについては改善しようがない要因であるが、それ以外にも、自分自身で気持ちをコントロールすることでうつ病予防につなげられる要因もある。

たとえば責任感の強い人。仕事熱心で、完璧主義な人ほどうつ病にかかりやすい。引き受けた仕事は必ずやり遂げるが、トラブルや問題が発生した際、自分の仕事だからと誰にも相談をせず、自分ひとりで解決しようとして思い悩んでしまう。また妥協ができないため、仕事の優先順位をつけずに全てを頑張ってしまうタイプである。結果、疲労やストレスが蓄積したり、あるいはちょっとした失敗や、仕事が間に合わなかった場合など、責任を一人で背負い込み、結果、うつ病になってしまうタイプである。

そして他人からの評価を必要以上に気にするタイプの人。周囲の人たちに気を配り、良好な関係を保とうとするあまり、常に他人からの目や評価が必要以上に気になり、ストレスを溜め込んでしまいうつ病になってしまう。

自分自身、あるいは近親者が「うつ病ではないか?」と感じたら、まずは石に相談をすること。老齢期うつ病は、ときに認知症と間違われることもあるため、自己判断ではなく正確な診断が必要となるのだ。

そしてうつ病と診断された場合の治療法は大きく分けて二つ。「休養」と「薬による治療」だ。

うつ病の治療でもっとも大切なことは、十分休養をとり、体と心を休めることだ。自宅でゆっくり休む必要があるが、その際、ずっと家にいることで罪悪感が生まれ、なにか仕事をしようとしたり、家の手伝いをしようとする場合がある。もともとまじめな性格のため、「休むことは罪」と感じてしまうためだ。しかし、うつ病を治療するには何もせずにゆっくりと休むことであり、そのためには家族や近親者からの協力・理解も必要だ。

そして薬による治療。「精神病を治すための薬」と聞くと、不安を感じたり抵抗感を持つ人、あるいは一度使い始めると二度と手放せなくなるという常習性もあるのではと心配される人もいるかもしれない。

しかしうつ病というのも、そのほかの病気と同じように薬を飲んで治療を行なうもの。日本で使用される薬はSSRIやSNRIと呼ばれる「坑うつ薬」が主なもので、患者の症状によっては「坑不安薬」や「睡眠導入薬」「精神安定薬」なども用いられる。

人によって異なるが、うつ病の治療薬は飲んですぐに効果が現れるものではないため、あせらずに薬を飲み続けることが大切だという。症状が改善しないからといって、自己の判断で薬を止めてしまったり、決められた量以上を服用してしまったりすると、逆に副作用に悩まされることもあるため、必ず医師の指示通りに服用することが大切だ。

うつ病は時間が経てば治るというものではない。「年だから」と、そのまま放っておくと徐々に悪化してゆき、治療も難しくなるので、適切な診断と早めの治療が大切である。

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