コラム
酉の市と年の市~福を取り込み正月準備!連載21
今も変わらず酉の日には縁起物の熊手を売る酉の市が開かれます。この市が開かれる神社はトリに関する名前が付いていることが多く、「客をトリ込む」とトリをかけていると言われています。江戸近郊の花畑(足立区)の鷲神社に近くの農民が熊手を奉納したのが始まりともいわれていますが、鳥を奉納したという説もあります。
熊手は「福を取り込む」といい、宝船に小判、米俵、大黒天、鶴亀など縁起の良い物を盛り沢山に飾り、何事も陽気に捕らえる江戸の人々の心意気を感じます。近年では昔ながらの物からキャラクター物などその店ならではのオリジナル熊手も多く新しい賑わいです。
江戸の近郊から発達した酉の市は、熊手の他にも箒やむしろなどの生活用品や、正月に必要な日用品も売られていたり、近郊農家が作った作物などもあり、今でいうならば「フリーマーケット」というのでしょうか。
作物の中でも人気があったのは芋の頭(八頭)。「人の頭に立つ」出世の縁起物とも、一つの芋から沢山の芽が出るので、子宝の縁起物ともされ大変な売れ行きだったようです。
現在酉の市が開かれる場所で有名なのは台東区竜泉寺町の鷲神社、浅草の酉の市。地下鉄の掲示板にこの酉の市のポスターが貼られると、なんとなく今年もあと何日……という気持ちになるものです。この場所が人気となったのは、江戸後期に吉原が近くに引越して来てからで、酉の市に行ったついでに吉原に行く人も多かったようです。吉原では普段は開けない鷲神社に近い門をこの日だけは開けたといいます。
また12月にはその年最後の縁日を行う神社も多く、注連飾り、神棚といった正月飾り、羽子板、毬など正月の玩具、昆布、勝栗、橙といったおせち料理の材料や楊子、歯磨き粉など日用雑貨まで多種多様な物が売られ、この縁日を「年の市」「暮市」「納の市」といい沢山の人手で溢れていたといわれています。
正月用品だけでなく楊子や歯磨き粉が売られていたのは、日本には新年には生活用品や下着など新品のものに取り替える習慣があったからだと思いますが、今の時代はこれだけコンビニが発達し、いつでもどこでも物が簡単に手に入る時代なので新年に初おろしをする感覚も薄れてしまっている気がします。
数多く立った市の中で一番の賑わいだったのが浅草浅草寺の年の市でした。その賑わいは今の浅草橋あたりから上野松坂屋あたりまで、様々な品物が並ぶほどであったといわれています。今でも十二月には浅草寺に市が立ち日用品の一つとして売られていた「羽子板市」だけが独立した形となっています。年末の流行語大賞のようにその年に脚光を浴びた芸能人やスポーツ選手などが羽子板のデザインとなり一年を振り返る時期にもなります。
今年はどんな年であったか……と考えると、ほんの数ヶ月前の事が昨日の事のようでもあり、はるか昔の様にも感じるものです。気持ちもついつい先へ先へと走ってしまう師走。時間と心にゆとりを持って市をのぞき今年一年を辿りながら、私の定番の初おろしである真っ白な足袋も買足す事も忘れずに、市の賑わいを体験したいと思います。(老友新聞社)
この記事が少しでもお役に立ったら「いいね!」や「シェア」をしてくださいね。