天の位

夏は案山子のかぶった帽子
冬は私の作業帽

松本　タケ

夏の案山子（かかし）と冬の自分の帽子。戯画化にエスプリ（機知）が感じられ二段切れの名詞止めに快いリズムがあります。人生を愉快に渡られているご様子で共感できます。

地の位

腰の痛みも一緒につれて
行こうシニアの新年会

勝亦　はる江

持病の一つや二つ誰にでもあります。それを「一緒につれて」と言い、更に「行こうシニアの」の元気付けは見事です。自己の鼓舞こそ健康の泉ですね。

人の位

ごぼう人参おせちの中に
遠い昔の母が居た

橋本　くにお

何歳になっても母は恋しい。御節料理は各地、各ご家庭それぞれのお味ですが、その一つ一つに母上が偲ばれます。「母が居た」がいいですね。

十　客

風もないのに洗濯物が
若さはらんで揺れている

福田　浩明

古稀を過ぎての手習事は
着物活（いか）して新舞踊

鈴木　曻

切れた電話に余韻が残る
甘く優しい彼の声

飛田　芳野

木戸をくぐれば古巣の匂い
帰省した子の深呼吸

大西　和子

凍る夜空の孤高の月よ
寂しくないのかひとり旅

王田　佗介

熱い味噌汁手料理母の
嬉し温もり里帰り

惣野代　英子

運がついてる人生こよみ
私ゃ大吉お人好し

三橋　ユキ

たった一輪花瓶の梅が
心和ませ咲き初める

石野　文子

風邪の季節は女性がきれい
白いマスクに付けマツゲ

山田　浩司

不況不況と世間は言うが
戦後思えばきりがない

仲野　まつ乃