コラム
親の小言は子の血肉となる…「甘やかし」は優しさではありません <市田ひろみ 連載13>
私は、明治生まれの親に育てられた。きびしい親で、たえず小言を言っていた。
「返事は聞こえるようにせなあかん」
「恩忘れたらあかん」
「約束は守らなあかん」
「弱いもんいじめしたらあかん」
「うそついたらあかん」
100点取って来ても、さしてほめられた記憶はない。
心の中では、「また言うてる」と、軽くいなしているものの、きっとそうした親の小言は、血肉の中にしみこんでいるのだ。
曽野綾子さんは、その著書の中で、「体罰は親の愛撫である」と書いている。憎しみによる暴力は許せないが、社会的経験の少ない子供には、良いこと、悪いことを身体で覚えさせるしかない。
日々、新聞やテレビで報道されるいじめや暴力は、痛みをしらない子供達によって引きおこされる。
いじめで生命を落とす子供達のことを考えると、親の苦しみのみならず、何とか未然に防げなかったのかと思う。
学校は気付かなかったとコメントするが、親は学校を信頼してあずけているのだから、教師たるもの、もっと気遣いをしてもらいたいものだ。
この間、ラジオの人生相談で、こんなのがあった。高校生の男児を持つ母親からの相談だ。
財布から1万円札1枚が無くなった。泥棒が入ったわけではない。
無くなって、3日後。子供部屋のごみ箱を捨てようとした時、にぎりつぶしたレシートが出て来た。
お母さんがていねいに引きのばしたら、近所の家電店のレシートで8千4百円の領収書だった。
長男は何を買ったのだろう。
相談者のお母さんは、息子に言った方が良いのか、知らないことにした方が良いのか、相談しているのだ。
解答者のコンサルタントはこう言った。
「子供には言わない方が良いでしょう。子供は悪いと思いながらやっているのですから……」
私はいまだにこの解答が分からない。息子は第二、第三の「成功」が無ければよいが……。
きびしい教育が良いのか、ほめて育てるのが良いのか。要は一番子供のそばにいるのは親だ。子供の人生の幸福は親の手の中にある。
良いことと悪いことをしっかり身体で覚えさせてやりたい。
私の小学校時代は、太平洋戦争のさなかだったから、学校教育もきびしかった。
食生活も充分ではなかったから、お弁当の食べのこしなど考えられない。
手を合わせて
「いただきます」
終わったら
「ごちそうさま」
親の命日がめぐってくるたびに、私は親への思いにひたる。
私はライフワークで、世界の民族衣装の研究をしている。
私の旅はパリやニューヨークではない。地図に名前の載っていない小さな村だ。同時に、治安の良いところばかりではない。
ボツワナやジンバブエなどで、コレクションをして帰った或る日。帰るといつも衣装の説明を両親にする。この間、衣装を見せていたら、父がこう言った。
「無事でよかった。お前が行っている間、無事でいるように、おがんでるんや」
と、ぽつりと言った。
親は言葉や形にしなくても、子供の事を思ってくれているのだ。
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- 市田 ひろみ
- 服飾評論家
重役秘書としてのOLをスタートに女優、美容師などを経て、現在は服飾評論家、エッセイスト、日本和装師会会長を務める。
書家としても活躍。講演会で日本中を駆けめぐるかたわら、世界の民族衣装を求めて膨大なコレクションを持ち、日本各地で展覧会を催す。
テレビCMの〝お茶のおばさん〟としても親しまれACC全日本CMフェスティバル賞を受賞。二〇〇一年厚生労働大臣より着付技術において「卓越技能者表彰」を授章。
二〇〇八年七月、G8洞爺湖サミット配偶者プログラムでは詩書と源氏物語を語り、十二単の着付を披露する。
現在、京都市観光協会副会長を務める。
テレビ朝日「京都迷宮案内」で女将役、NHK「おしゃれ工房」などテレビ出演多数。
著書多数。講演活動で活躍。海外文化交流も一〇六都市におよぶ。
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