コラム
夏の知恵〈江戸時代の夏の過ごし方〉
(本稿は老友新聞本紙2018年8月に掲載された当時のものです)
夏の到来です。関東は6月中に梅雨が明けて一気に暑くなりました。今年は夏が長くなりそうです。
クーラーはおろか扇風機も無かった江戸時代、人々はどのように夏を過ごしていたのでしょう。いつも江戸時代に生まれたかったと思う私も、夏だけはクーラーの恩恵にあやかる現代でないと生活出来ないかもしれません。
江戸時代の夏の必須アイテムを挙げてみましょう。
1.団扇
持ち手が丸く、柄と地紙の間に骨が見えているのが江戸風の団扇。柄が平たくて骨が見えていないのは京風です。
2.簾
3.釣り忍
風鈴を吊るしてチリーンという音色が風流です。
4.朝顔
江戸を代表する花です。
5.今戸焼の蚊遣り
6.水草と金魚
まだガラスが一般的ではなかったので、鉢の中の水草の間を泳ぐ赤い金魚を上から眺めて楽しむものでした。
7.蛍
青みかかった光が涼しさをよんでいたのでしょう。
8.夏の味覚。冷やし瓜
ご存知スイカです。これらを想像するだけで幾分涼し気になりますね。
暑い夏を、五感を働かせて涼しく過ごそうと考えた江戸っ子の知恵です。
当時の夏の暑い時期は、中ひと月(現在の7月下旬から8月末)といわれ、夏休みを取るには、さあどうするか……。その1カ月分の生活費をなんとかすればよい、という発想。そういう発想がなんとも羨ましい限りです。
それならば、エイッ!ヤー!という具合で、見るだけでも暑苦しく夏には必要のない夜具布団を、なんと質屋へ入れてしまうのです。夜具は、江戸庶民の家財道具で最も高価、質草としては強い味方です。そして、寒くなれば絶対に必要なので、多めにお金を貸してもらえました。これで夏休みの準備は完璧です。質屋さんは最低でも8カ月待ってくれますし、冬が来たら寒くて請け出さずにいられないのです。
その時にお金がなくても大丈夫。今度は冬には出番のないカヤを質に入れて、夜具を請け出せばよいのです。カヤもまた、それ無しでは夏を過せない高価なものでした。でも、よく考えるとこの作戦、毎年は使えません。夜具とカヤが化け合ってお金は残らないのですから。
ではどんな夏休みだったのかというと、日中は銭湯の2階や床屋でゆっくり過ごし、日が傾く頃には床几を出して囲碁将棋。橋の上や屋根に登って花火見物など、呑気に市中にいて夏を楽しむのが定番の過ごし方でした。
それでも町の中では現代のように「忙しくて休みが取れない」という武士(公務員)、大店の奉公人(一流企業のサラリーマン)も当然いましたが、大半の江戸の人は暑いから「パーッと休む」ことが出来たのです。
もとが「宵越しの金は持たない」という蓄えのないのが身上の江戸っ子。羨ましく思う反面、現代ではとてもまねは出来ませんが、これからが夏本番。江戸人の知恵を取り入れて夏を乗り切りましょう。
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