高齢者のための情報サイト【日本老友新聞】

老友新聞
ルーペ

医療と健康

2023年02月01日

「トクホ」ってご存じですか?

皆さん「トクホ」って聞いたことあると思います。人が手足を広げたようなマーク(図)が様々な食品や飲料について、一目で「トクホ」の商品として分かりやすく表示されています。スーパーやコンビニなどで見かける主に飲料用品で、お茶やヨーグルト、あるいはノンアルコールビールといった、多くの商品にこのマークが付いていて、どの成分がどのように健康に良いかが書いてあり、最近の「トクホ」はとっても身近な存在になったと思います。

でも、みなさん「トクホ」ってどんな意味かご存じでしょうか? 「なんだか体によさそうな感じだけど、詳しくは知らない」という方が多いのではないでしょうか。「トクホ」は正しくは「特定保健用食品」といいます。この「トクホ」は開発した事業者(メーカ)が商品ごとに消費者庁にその安全性や有効性を科学的な検証とともに申請し、かなりハードルの高い審査を経て許可される食品です。実は「コレステロールを下げる」とか「体脂肪を減らす」といった健康に有効性のある文言を記載し、このマークを付けることができるのは、「トクホ」以外の食品では禁止されているのです。逆に言うとその商品について厳しい審査をクリアしたものだけに、ある一定の効果を表示することが認められているといえるでしょう。したがって、「トクホ」として販売されている飲料品や食品などは、不適切な生活習慣などで健康を損ねるリスクを軽減することが(科学的根拠をもって)期待できる健康食品といっても良いでしょう。

消費者庁許可 特定保健用食品

「特定保健用食品」(トクホ)に似た食品に対する表示として「機能性表示食品」という食品もあります。機能性表示食品はその食品に含まれている栄養成分について国のルールに基づいてその安全性や効能に関して文献検索などの情報をもとに表示した商品で、販売する事業者が消費者庁に事前に届出でることで承認されるものです。また、「栄養機能食品」という食品もありますが、これは基本的にはビタミン剤やミネラル、n-3系脂肪酸といったサプリメントの表示に用いられています。

ここでは、特に「特定保健用食品」と「機能性表示食品」の違いについて、あまりよく知られていませんので、少し詳しく紹介しておきましょう。この両者ではその食品の安全性、有効性・機能性に関する科学的根拠の裏付けの方法はかなり異なっています(図)。すなわち、「特定保健用食品」はその商品を用いて、実際にその商品を開発した事業者(メーカー)が自前でヒトを対象とした臨床試験を実施し、その結果(科学的根拠)を示して国に申請する必要があり、厳しい審査を経て消費者庁長官の許可を受けることになります。表示方法は「トクホ」のマークとともに、「○○の機能(効果)があります」と表示することができます。一方、「機能性表示食品」はその商品に含まれる成分などについて主に(これまで報告された)文献や論文を引用することによって、有効性を示すだけですので、消費者庁長官の許可はありません。したがって表示の方法は「○○の機能(効果)があると報告されています」となります。

本来であれば、食品や健康にかかわる商品についてはそれを販売する事業者(メーカー)側が自前で研究計画を立て、ランダム化試験(RCT)と呼ばれるような厳密な有効性を示す必要があるのですが、このような方法はしかし事業者にとっては大きな経費(研究費)と時間がかかり、さらに研究の安全性や妥当性について倫理委員会の承認を得たり、対象者(モニターとなる人々)への説明と同意(インフォームド・コンセント)が必要となるなど、非常に手間暇のかかる負担の大きな事業なのです。しかも、それだけの時間と費用をかけても結果は必ずしも事前の予測通りにはならない、時には逆の結果(すなわち事業者にとって不利な結果)が出る可能性もあるなど、ある意味企業にとってはリスクの高い(研究)事業でもあるのです。このように、自社製品の安全性や有効性に関する研究を自前で実施し「特定保健用食品」として販売するというのはハードルが高く、大手企業では出来る可能性は高いのですが、中小企業にとってはなかなか難しい事業といえます。このような背景があるため、「トクホ」としてではなく、安全性や有効性についてはこれまでの国内外の先行研究を集め、文献的に科学的根拠を構築することで商品としてパッケージなどに機能を記載して販売することを可能としたものが、「機能性表示食品」ということになります。

本来、健康食品としては健康にかかわる機能に対して安全で有効性の確認された食品が望ましいことはもちろんです。とはいえ特定保健用食品はあくまで食品です。お薬などの医薬品ではないため「病気に効く」というわけではありません。病気の治療や予防を目的として食べたり飲んだりしても、少なくとも治療効果は期待できないことに注意が必要です。また製品に記載されている「摂取上の注意」や「1日当たりの摂取目安量」を守ることも大切です。また、特定保健用食品は基本的に健康な人を対象として作られていますので、何らかの病気で通院や服薬をしている場合は、服用している薬などとの兼ね合いを、医師や薬剤師などに相談することもぜひ守っていただきたいと思います。「トクホ」をはじめとして食品に含まれる様々な機能の表示がある食品については、日常の食生活などに上手に取り入れ、みなさんの健康づくりに役立てていただきたいと思います。

「トクホ」ってご存じですか?

この記事が少しでもお役に立ったら「いいね!」や「シェア」をしてくださいね。

鈴木 隆雄 先生
  • 桜美林大学 大学院 特任教授
  • 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
老後をめぐる現実と課題(健康問題,社会保障,在宅医療等)について,長年の豊富なデータと科学的根拠をもとに解説,解決策を探る。病気や介護状態・「予防」の本質とは。科学的な根拠が解き明かす、人生100年時代の生き方、老い方、死に方。
鈴木隆雄・著 / 大修館書店・刊 
Amazon
高齢者に忍び寄るフレイル問題 特集ページ
日本老友新聞・新聞購読のお申込み
日本老友新聞・新聞購読のお申込み
  • トップへ戻る ホームへ戻る