コラム
玉木正之のスポーツ博覧会
スポーツ関係者は、無自覚的「スポーツウォッシング」に注意!
「スポーツウォッシング」という言葉を御存知だろうか?
人気のあるスポーツイベントが開催され、多くの人々が興奮し、重要な物事を忘れてしまう時(洗い流し、ウォッシング)に用いられる言葉だ。
商業化、肥大化したオリンピックは人々に害をもたらしていると、その開催に反対する米パシフィック大学のボイコフ教授らが使い始めた新しい言葉だが、その現象は日本でも古くから存在した。
1960年。日米安全保障条約の改定に反対し、岸信介内閣を倒せと叫ぶ10万人以上のデモ隊が国会議事堂と首相官邸を囲んだ時、岸総理はこううそぶいたという。「健全な国民は巨人・阪神戦を見ている」
権力者(政治家)がスポーツを利用し、国民の目を批判からそらせようとする事態がスポーツウォッシングと呼ばれるのだが、無自覚的に同様の事態が起こる場合もある。
カタールで開催されているサッカーW杯では、多くの西欧諸国の人々がカタール政府の移民労働者に対する賃金未払いや、多くの死者まで出した過酷な労働を非難し、デモも行われた。同性愛禁止の法律や罰則に対して、性的少数者(マイノリティー)に対する不当な差別だとの抗議の声も出た。
それに対して日本サッカー協会の田島幸三会長が「今サッカー以外のことを話題にするのは好ましくない」と発言。それを人権団体が「スポーツウォッシング」と非難した。
田島会長はW杯を無事に成功させたい気持ちだけだったのだろう。が、彼の発言は結果的にカタール政府の不当な移民政策や性的マイノリティーへの差別の助長につながるスポーツウォッシングを推進する発言だったと言える。
日本代表の活躍もうれしいが、そんな「スポーツのマイナスの力(パワー)」のあることも自覚してほしい。
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