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「昭和の紙芝居」上演半世紀~高峰げんごろうさんの生き様
およそ半世紀の長きに渡り、世界各地でガマの油口上及び紙芝居を上演してきた高峰げんごろう(旧芸名源吾朗)さんをご存知だろうか。故小沢昭一氏(俳優、タレント、エッセイスト、芸能研究者)に傾倒して『日本伝統諸民芸』を研究し、自身は大道芸人、漫談家として活躍してきた紙芝居の第一人者である。大道芸を通して世界各地で日本の伝統諸民芸を広めてきた実績ももつ。その生き様を覗き見た。
表現することに魅せられて…
がんを克服し今も浅草で上演
東京・浅草、浅草寺の近くに、『すしや通り』という名の通りがある。その通りの一角に、ほぼ毎週土曜、日曜日、ちょっとした人だかりができる
。およそ半世紀も大道芸人を続けてきた高峰げんごろうさんの紙芝居が上演されているのだ。
紙芝居ならではの節回しや登場人物を演じ分ける声色、その見事な「演技」に子どもから大人まで、嬉々として見入っている。
そのげんごろうさんが、口腔がんの手術を受けたのは2005年のことだ。歯を取る手術のため、医師からは「普通の喋りはできなくなるかもしれない」と言われたという。
「喋りができなくなるなんて、人生最大の危機だと思いました。おまけに、2017年には頬粘膜にも腫瘍ができて2回目の手術。しかもこれは歯茎を大きく取る手術でそした。しかし、鼠径部から皮膚を取って移殖し、見た目ではわからないようにしていただきました」
そんな大手術を受け、しかも元のように喋ることができないかもしれないと言われたにも関わらず、げんごろうさんは見事に乗り越えて今も紙芝居を上演している。
「入院中からゆっくりゆっくりとリハビリをし、納得行くまで稽古したんです。かみさんに病院に来てもらって、録音して、どこが悪いか指摘してもらい、何度も繰り返して『ああ、良くなったわね』と、その繰り返しです。大部屋でしたから小さい声で(笑)。声を出さなくてもいいんです、口だけを動かして。声を出すのは屋上に行ってやりました」
そして今は、顔の見た目も、話し方も、手術したのがわからないほどに回復した。それは、冷静でありながら、必ずや仕事に復帰するという熱い思いがあったからであろう。
「度胸づけ」がきっかけ
では、げんごろうさんを奮い立たせる紙芝居とは、げんごろうさんにとって何なのだろうか。
「私は東京に出てきて、役者になりたくて劇団に入りました。ですが、劇団の公演はそう頻繁にあるものではありません。当時は初めて歩行者天国ができたときです。劇団仲間と『度胸づけに紙芝居をやろう!』と、新宿の紀伊國屋書店付近に行って紙芝居を上演したのが始まりでした。私は山形出身で訛りを直すためにも、また話がうまくなるために、喋りを担当したのです」
そうしてげんごろうさんは劇団の舞台公演はもちろん、ドラマ出演を果たし、同時に大道芸も続けてきた。
「私は、生きるとは何か、と考えるんですよ。何の仕事でもそうですが、やると決めたら追求しながら生きることだと思うんです。そして私が決めたのが「表現すること」。中でも昭和の紙芝居は、生のお客さんと触れ合える、それが魅力です」
紙芝居は木の枠の中だけで終わるのではなく、自在の声色と自身の体の動き、木枠を載せた自転車、そして子どもたちに渡すお菓子まで、すべてを含めて表現なのだという。
世界20か国へ
だからげんごろうさんの紙芝居は世界へも飛び出した。
「メキシコ、ドミニカ共和国、パキスタン、モンゴルなど、国際交流基金の事業の一環などで20か国ほど渡航しました。親日家が集まってくれるので、その場は大盛りあがりです(笑)」
モンゴルにて紙芝居を披露するげんごろうさん(右)
また、阪神・淡路大震災の際には、兵庫・神戸市の小学校にも通って紙芝居を上演した。
「その小学校の子たちが震災を題材にした紙芝居を作ったのですが、それを借りて海外でも上演しましたね。最近では芸人仲間とウクライナへの募金を目的に投げ銭大道芸をやりました」
げんごろうさんの紙芝居の観客は子どもから大人まで。本紙読者層と同年代の人たちは、恥ずかしいのかあまり見ていかないとげんごろうさんは笑う。
「でも、『懐かしくていいねえ』といって話しかけてくる人は多いですよ。私の十八番の『黄金バット』などは、特に興味を引くようです。子どものころに紙芝居を見に行った思い出を、ひとしきり話していく方が少なくありませんね」
げんごろうさんの「昭和の紙芝居」、興味のある方は浅草・すしや通りまで足を運んでみてはいかがだろうか。タイムスリップしたような情景と、げんごろうさんの演技に魅了されるに違いない。
また、各地のイベントや福祉施設での上演も行っている。カルチャーワークス・源吾朗事務所(電話03・5155・7244、FAX03・6273・9644)までお問い合わせを。
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